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『ベイビー・ブローカー』(Broker) | |||||
監督 是枝裕和 | |||||
世の中から犯罪を減少させるものは、決して厳罰化や監視強化などではないとの作り手の強い思いが宿っている作品であることが感じられ、大いに感銘を受けた。 四年前に観た『万引き家族』でやり残していることに始末を付けた映画のようにも感じられ、これぞ、嘘から出た実と思える納得感に『万引き家族』に欠けていたのは、心の中の動きも含め、旅の姿だったことに思い当たったような気がする。 その『万引き家族』での亜紀【別名:さやか】を演じた松岡茉優を想起させるイ・ジウンの演じたソヨンの人物造形が印象深く、彼女の複雑な心境を目の当たりにして己が母親への想いに決着をつけることのできたドンス(カン・ドンウォン)の姿に強く心打たれた。ソヨンから母親を許してあげるよう促され、「ウソンの代わりに僕がソヨンを許すよ」と言った台詞もなかなか好かったが、それ以上に、赤ん坊仲買人のサンヒョン(ソン・ガンホ)からソヨンは間違いなく自分たちを警察に売ると言われ、「でも、それでソヨンがやり直せるのなら…」と返したときのカン・ドンウォンの表情に味があった。海へ進むとの意を持つ名の子どもヘジンとソヨン、サンヒョンとともに赤ん坊を連れて彼が旅した時間のもたらした掛け替えのないものの大きさを思った。 ドンスだけではなく、「私のようにはならないように」と少年婦人課の女性刑事スジン(ペ・ドゥナ)に託したソヨンや、当のスジン刑事、サンヒョンも含めて、主要人物の皆人が幼い時分に十全たる関係を母親と持てずに育った境遇にあることを偲ばせる屈託を窺わせ、いかにもそういうものを抱えていない素直さを体現していた同僚刑事(イ・ジュヨン)を置いて対照させているのが効いていたような気がする。 サンヒョンから「褒美にどこに行きたい?」と問われ「洗車場」と答えていたヘジンの場面も印象深かった。洗車場でヘジンが窓ガラスを開けてしまい、皆がびしょ濡れになってしまったとき、大人の誰もヘジンを叱らず、それどころか大笑いし合った場所だ。他愛なく腹の底から笑い合うことのカタルシスをよく描き出していたからこそ、このヘジンの台詞が効いてくるのだが、ヘジンがそう言うことによって、四人がいかにそのような“家族”と縁遠かったかをも偲ばせるような、とても素敵な洗車場の場面だった気がする。いい映画だと思う。 | |||||
by ヤマ '22. 7. 9. TOHOシネマズ5 | |||||
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