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『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(Battle of the Sexes)['17] | |||||
監督 ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
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何の映画の話をしていてかは忘れたが、映友女性から教えられて気になっていた作品だ。ちょうど『ドリームプラン』を観たばかりだから、いいタイミングだった。 名高い男女対抗試合を29歳のビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)に仕掛けた当時55歳の往年の全英全米大会覇者ボビー・リッグス(スティーヴ・カレル)の描き方に意表を突かれて、大いに楽しんだ。 全米オープンを仕切るジャック・クレーマー(ビル・プルマン)は、差別主義に囚われた憎まれ役そのものだったけれども、自らを「男性至上主義のブタ」と名乗るボビーについては、年齢的に第一線を引かざるを得なくなり、ギャンブルに現を抜かすほかに居場所がなくなっている男に漂う哀感、巻き返しを捨てないタフさ、過信を伴った緩さ、生来と思しきユーモアと愛嬌を湛えた魅力ある男に造形されていて、エンドロールのクレジットに記された妻プリシラ(エリザベス・シュー)との復縁にも違和感のない、シニアの意気軒昂と捨て身のセルフプロデュース力が描かれていた気がする。 テニスの男女対抗戦は、二人の試合の約二十年後にジミー・コナーズとマルチナ・ナブラチロワのビッグネーム対戦が記憶にあるが、わずか5歳しか違わないことで設けられたハンディ戦にもかかわらず、コナーズがストレート勝ちしたことを思うと、ボビー・リッグスが当時世界第1位のマーガレット・コート夫人にはストレート勝ちしていることのほうに感心してしまう。ボビーは、キング夫人には逆にストレート負けしてしまうが、そこにはコート夫人に勝ったことでの慢心とキング夫人がそれなりにボビー対策を講じていたことがきちんと描かれていて納得感があった。 ビリー・ジーンが美容師マリリン・バーネット(アンドレア・ライズブロー)と恋心を通わせる場面に使われていた楽曲が同性愛者を公表しているエルトン・ジョンの♪ロケットマン♪であったり、『チョコレート・ドーナツ』['12]で印象深かったアラン・カミングがいい役どころで登場していたりと、なかなか行き届いていた。 試合で見せるストローク場面は全て遠景で、二人の顔がよく分からなかったから、実際の試合の記録映像なのではないかという気がしてならない。今どきのテニスの試合にはない緩くて軟らかいプレースタイルに見合った華麗さが、懐かしくも魅力的だった。また、男性大会の賞金が八倍も優位にあるテニス界に立ち向かう思いからキング夫人がやり手の女性グラディス・ヘルドマンの力を得て作った女子テニス協会のスポンサーがフィリップモリス社で、支援条件が同社のメンソレ煙草を吸っている姿を取材時に見せることだというのも、今どきのテニス界では考えられないことだと興味深く観た。 それにしても、試合前の二人のコメントに添えられた贈答品のうちのキング夫人からボビーに手渡しされたものが生きた子豚だったというのは、実際のことだったのだろうか。いずれにしても、時代に先駆けたビリー・ジーンが女子テニス界を切り開いた“ロケットウーマン”プレイヤーで、獲得タイトル以上の業績を残していることがよく伝えられていたように思う。エンドロールに記されていた三十六年後の大統領自由勲章の授与も納得の若かりし姿だったような気がする。ボビーのみならず、離婚した後も親交を保ったとのラリー・キング(オースティン・ストウェル)や、後には訣別しながらもビリー・ジーンのSOGI【Sexual Orientation and Gender Identity】を切り開いた、美容師らしく手先の器用に自負のあるマリリンの描き方に対して配慮の窺えるところに好感を覚えた。 ある意味、ビリー・ジーン以上にインパクトのあったボビー像を造形していたスティーヴ・カレルが何と言っても天晴れだったが、「女性というものは重圧に弱い」「男と女ではレベルが違う」などと嘯いていたジャックに真っ向から挑む果敢さとラリーへの疚しさやマリリンに溺れる心許なさを繊細に演じていたエマ・ストーンは、前年のアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』以上に見事だったように思う。 推薦テクスト:「ケイケイの映画日記」より https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967489864&owner_id=1095496 | |||||
by ヤマ '22. 3. 6. NHK総合録画 | |||||
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