『燃えよ剣』
監督・脚本 原田眞人

 思った以上に面白くて驚いた。原田作品では今まで観たなかで最も面白かったように思う。とにかく土方歳三を演じた岡田准一がかっこいい。

 七年前に観た蜩ノ記』の映画日誌それにしても、岡田准一はいい。運動神経がいいのだろう。身のこなし、所作にキレがあって美しい。と記して以来、時代劇の出演作を観るたびに殺陣が上手くなっていて感心していたのだが、エンドロールによれば、本作の土方歳三関連の殺陣は、岡田准一が造ったようだ。美しい立ち回りを充分以上に見せられる彼が、いかにも農民あがりのバラガキ剣法らしい“型に縛られていない喧嘩殺法”を巧みに見せるばかりか、剣士の摺り足とは対照的な、まるでボクシングのフットワークのような足使いを普段からしている姿に大いに感心したが、あの部分もおそらく岡田准一のアイデアなのだろう。

 十四年前に観た三池崇史の『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』['07]がマカロニ・ウエスタンを志向しながら、作り手が金を掛けて凝って大真面目に遊んでいる“遊戯感”が強すぎて、平家ギャングにしても源氏ギャングにしても、お宝強奪や抗争に本気感がちっともない。だから、力を入れていた殺戮抗争シーンが生きてこなかったような気がしたことに擬えて言えば、美術的にも満足できた本作には、正統なアメリカン・ウエスタンのテイストが漂っていた気がする。日本史における屈指の政変と思われる幕末維新の真っただ中に生き、戦略や統制には長けながら、政治的野望はいっさい持たない実務に徹した生き方の“漢としての潔さ”に感じ入りつつ、漂ってくる寂寥感に感慨を覚えた。そして、ふと土方歳三は、前首相のようなキャラクターの人物だったのかもしれないと思った。土方が賢明だったのは、前首相と違って政治的野心を抱かなかったことだということが、なおさら際立って感じられるような気がした。

 司馬遼太郎による未読の原作にはおそらくはないと思われる“土方自身からの聞き書き”という構成が効いて非常に納得感があるとともに、小さな巨人['70]や許されざる者['93]を彷彿させるところがあって、大いに感心した。ウーマンラッシュアワーの村本大輔を配した商才に長けた饒舌隊士の山崎烝の造形に限らず、エンタメ感を醸成する小ネタや軽みのある場面をけっこう随所に施しているのだが、三池作品のような遣り過ぎ感のない、程のよさだったような気がする。ほぼ二時間半の長尺をまるで倦ませることなく運んで、寂寥感に至らせたのは御見事だったと思う。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2021/11/post-cdd210.html
推薦テクスト:「シューテツさんmixi」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980645708&owner_id=425206
by ヤマ

'21.11.14. TOHOシネマズ5



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