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『クーリエ:最高機密の運び屋』(The Courier) | |||||
監督 ドミニク・クック
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思いのほか、面白かった。六十年前のキューバ危機にまつわるグレヴィル・ウィンとオレグ・ペンコフスキー大佐によるスパイ事件について、何も知らなかったからかもしれないけれども、史実に対してどうとかいったバイアスが何も掛からずに、如何にも潤色たっぷりのエンタメ作品を大いに堪能した。同じ運び屋でも、一年半前に観たイーストウッドの『運び屋』より数段面白かった。 あの激ヤセぶりの凄みがそのまま、ウィンを演じたベネディクト・カンバーバッチの凄みに通じていたから、エンドロールで映し出された当時の実写フィルムと思しき映像との相似性に感心。カンバーバッチの叫んだ「You Did It !」が蘇ってきたが、あの感動的なオレグ(メラーブ・ニニッゼ)との再会や妻シーラ(ジェシー・バックリー)との面会というのは、実際はなかったような気がしてならない。というか、そもそもウィンは、実際のところは、本当にただの運び屋に過ぎず、自分が何を運んでいたのか知らなかったのではないかという気がしてならなかった。 折しも『MINAMATA―ミナマタ―』が事実と違い過ぎるといった批判を受けているらしいこととの対照が興味深く感じられた。毀誉褒貶著しい同作を、僕はそう高く買っているほうではないのだが、それは日誌にも綴ったように、あくまでも僕が受け止めた映画作品としての話であって、事実との齟齬が気に障ってというものではない。劇化に当たっては、事実どおりになぞった物語にしないほうが却って真実を炙り出せる場合があるとしたものだ。ただ、どのように造形するかにおいては、自ずと作り手の力量や志の在りようが現われてくるわけで、その点からすると、本作のほうが上回っているように僕には感じられる。 そして「嘘はときに“愛の行為”だ」という台詞が、こういう形で返って来るのかと、CIAエージェントのエレン(レイチェル・ブロズナハン)がウィンの妻を訪ねて説き伏せる台詞に感心し、シーラが思わず悔悟の言葉を洩らす場面が気に入った。スクリーン観賞なのに、映写機材の事情からくる画質の悪さが気になって気持ちの削がれた前作『追想』を観直してみたくなるほど、緊迫感のある運びと人物造形の上手さに感心した。 CIAの女性エージェントという設定もまた、事実とは異なっているような気がする。だが、'60年代という時代の緊張感や普通の家にも核シェルターが設えられたりしていた時代の米ソの関係や、フルシチョフ第一書記のネガティヴイメージは、とてもよく伝わってきたように思う。そして、そういった点では、『MINAMATA―ミナマタ―』も本作に負けず劣らず、よく健闘していたような気がする。 | |||||
by ヤマ '21.10.10. TOHOシネマズ2 | |||||
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