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Kinema M 夏のひめごと +1
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定番のドリンク付き1デイチケット(2000円)で、“夏のひめごと”と題する二本立てと、先週の激音上映でも上映されていた『ベイビー・ドライバー』を合わせた三作品を観てきた。“夏のひめごと”の二本は、大正中期の米騒動やシベリア出兵の頃の夏の房事を描いた『四畳半襖の裏張り』['73]と、夏休みに親元を脱出し、森のなかに秘密のあばら屋を建ててひと月暮らした少年たちを描いた『キングス・オブ・サマー』['13]だ。 最初に観た『四畳半襖の裏張り』は、早稲田祭だか何だかで文学部の大教室で観て以来だから四十年ぶりの再見となるが、大正中期ではなく、226事件のあった敗戦前昭和中期とも言うべき昭和11年の阿部定事件を描いた『愛のコリーダ』['76]と、こんなにも合い通じるテイストに妙味のある作品だとの覚えがなく、いささか驚いた。学生時分に観た当時は、芸者の袖子を演じた宮下順子の夏の夜の汗にまみれた艶技によほど気を取られていたのだろう。程なくして『愛のコリーダ』をパリで観たときに、本作を想起したような記憶がない。いま観ると袖子以上に、花枝(絵沢萠子)や花丸(芹明香)、夕子(丘奈保美)の哀感漂う滑稽さが目を惹いた。 初めて観る『キングス・オブ・サマー』は、どことなく『スタンド・バイ・ミー』['87]と『ヤング・ゼネレーション』['80]を想起させるところのある作品ながら、ある種風変わりなテイストに妙味があって、いわゆるノスタルジックな風味を敢えて避けているところが目を惹いた。ジョー(ニック・ロビンソン)、パトリック(ガブリエル・バッソ)、ビアジオ(モイセス・アリアス)それぞれの抱えている苦衷や孤独をきちんと捉えているところがいい。 最も面白かったのは、そのあと観た『ベイビー・ドライバー』だった。これまで幾度となく再生産されてきている銀行強盗エンタメなのだが、今までに観たことがない新鮮味に彩られていて意表を突かれた。このジャンルで新味を醸し出すのは至難の業だと実に感心させられたのだが、ベイビーことマイルス(アンセル・エルゴート)の妙に気真面目なキャラクター造形がよかったのかもしれない。強盗団の凄腕メンバーであるバッツ(ジェイミー・フォックス)やバディ(ジョン・ハム)といった頭も切れるが、心も切れやすい危ない男たちのキャラクターを見事に造形していた役者陣にも大いに感心した。ダイナーのウェイトレスだったデボラ(リリー・ジェームズ)は、いつのまにこんな高級車で出迎えに来ることのできる金持ちになったのだろうなどと思いながらも、なかなか気分のいいエンディングだった。 それにしても、前日に観た『あなたの旅立ち、綴ります』['16]といい、本作といい、やはりアメリカというのは、ロックカルチャーの国なんだなと改めて思う。個人的にはLPレコードも持っているフォーカスの♪悪魔の呪文♪が妙に懐かしく、嬉しかった。 『ベイビー・ドライバー』 推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より http://dfn2011tyo.soragoto.net/dfn2005/Review/2017/2017_12_11.html | ||||||||
by ヤマ '18. 8.13. ウィークエンドキネマM | ||||||||
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