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『ちょっと今から仕事やめてくる』 | |||||
監督 成島出
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試写会に当たったからと娘が誘ってくれたので、公開より一足先に観て来た。もともと予告編のときから観に行くつもりだったから、なおさら好都合というわけだ。近ごろ流行りのスピリチュアル系ファンタジーというか、不思議系の話にせずに、きっちりとリアルドラマとして仕上げていたところが気に入った。 造作ではなく相好を崩したときの表情が次男に似ている福士蒼汰は、それゆえにか『イン・ザ・ヒーロー』を観て以来、ちょっと気に入っている役者だ。結局は行きそびれたけれども『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』も観に行くつもりではいた。そのような彼の、演技ではなく笑顔を重要な要素に仕立てた作品で、作り手からのメッセージも好もしく、大いに気に入った。それと同時に、今の若者にこんなに苦しい思いをさせている世の中というものに対して、そろそろリタイア組となってきた先行世代として実に申し訳ないような気持ちにも見舞われた。 ちょうど二十年前に観たアンゲロプロス監督の『蜂の旅人』の映画日誌に「つらさというのは、感情体験として僕が一定時間付き合ったことのあるものではないからなのかもしれない。僕は、幸か不幸か、それほど多くのつらい出来事に出会ってこなかったし、つらさを感じても、それをつらいと思うままに感じ続ける持続力がなくて、すぐに考え方や観点を変えて対象化してしまう小利口さに恵まれてきた。」と記した僕は、その後の二十年においても、つらい思いを殆ど味わわずに過ごしてきている。だから余計に、本作にてブラック企業と言う他ない社訓を掲げたパワハラ部長(吉田鋼太郎)の君臨する職場で疲弊しながらも辞められず発作的に自殺を図るほどに消耗していた青山隆(工藤阿須加)や、小学校の同級生を名乗って彼の前に現れたヤマモト(福士蒼汰)の抱えていた悲痛に、いたたまれなさを覚えたのかもしれない。幾人もの孫を持つようになり、二十年前の自分とは違ってきていることを痛感した。 本作を観ていると、やはり今の日本社会は、病んでいるというよりも傷んでいるという気がする。だが、そのなかにあって生き延びる道としての標を、飛び降りるのではない“飛び出す勇気”によって指し示しているところがいい。そして、自身が勇気をもって苦境を脱することが、必ず他者の誰かを勇気づけることであったり、感謝されることであることを明示しているところに心打たれた。ヤマモトが旅立つ前に、本当に嬉しそうに玲子園長(小池栄子)に語っていたという隆の姿を写した言葉が、なかなか素敵だ。人の躍動感、活き活きとした姿というものは、決して南洋バヌアツ共和国に住む素朴な自然とともに暮らす子供たちにしか残っていないものであってはならない。 | |||||
by ヤマ '17. 5.18. TOHOシネマズ7 | |||||
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