『シン・ゴジラ』
総監督 庵野秀明

 二年前にハリウッド版GODZILLA ゴジラ(ギャレス・エドワーズ監督)を観て、今回の海外版の作り手は、かつて日本でのシリーズ化のなかで怪獣をアイドルに変貌させていった本家の作り手たちが見失った原点への回帰を見事に果たし、人間を圧倒的に超越した存在としての“神性”を体現したゴジラを造形していたように思うと綴っていた部分に対して、やはり本家はこちらなんだと思わせてくれる出来栄えの作品で、実に面白かった。

 今回の「新ゴジラ」は、人間の地球環境に対する冒涜を背負った“罪ゴジラ”たり得ていることで、まさに“真ゴジラ”になっているように感じた。そういう意味では「 SHIN GODZLLA という英題にしてはいけない、SIN GODZLLA でないと…」とも思った。

 惹句の「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)。」がなかなか冴えていて、現実部分の把握と造形が非常によくできている脚本【庵野秀明】だと思ったが、実は最も非現実的な虚構部分はゴジラではなく、政府サイドのあの見事なまでの対応のほうだと思わないではいられなかった。

 けれども、ちょうど先ごろインデペンデンス・デイ:リサージェンスを観たばかりのせいか、二十年前の『インデペンデンス・デイ』を想い起すような“責任感と誇りある現場主義”が、思いのほか気持ちよかった。世界のスパコンを連帯させ得るような叡智が人類にまだ残っていると思いたい。理想を願い、思い描くことは、やはり大事だと改めて思う。

 少年漫画雑誌の図解シリーズで知的好奇心をくすぐられて育った世代としては、ゴジラの生体としての仕組みにきちんと理屈があるらしいことが嬉しく、また、膨大な数の登場人物それぞれに個々の思惑や相関模様があることをきっちりと窺わせるのに怠りないところがいい。そのうえで、深入りしていない脚本の捌きが見事で、それらの具体については、ほとんどよく分らないままだったのに全く不満がない。映画づくりのうえでの省略と注力のバランスが非常にいいと思った。

 そして、自衛隊が前面に出てきているのに、十五年前にゴジラ・モスラ・キングギドラ/大怪獣総攻撃を観たときのような胡散臭さをこの作品には感じなかったところが、我ながら興味深く思われた。当時以上に状況は悪化している気がするのに、不本意ながらも馴らされてきてしまった部分が自分のなかにあるのかもしれないとも思ったが、自衛隊の描き方の差異によるのではないのかという気がしている。本作では、対ゴジラ作戦として自衛隊が前面に出てきながらも、決して自衛官をヒロイックに盛り立てることなく、むしろ毅然と機能している“シビリアンコントロール”の美しさとコントロールする側が自覚すべきプレッシャーというものを意識的に印象づけているように感じた。確かな見識だと思う。

 それにしても、個体進化でくるとは思い掛けなかった。最初の水生ステージの姿を観たときには、どうなることやらと仰天したが、今までに観たことのない神々しいまでの紫色の光を放つ「シン・ゴジラ」の威容に打たれ、原爆ドームと同じきモニュメントとして残されるべき姿を廃墟に留めた光景に痺れた。

 また、予告編で観た石原さとみが思いのほかよくて驚いた。さんざん特報で、右に回るゴジラの尻尾、左に回る石原さとみ、左に回る戦車の砲台という三連続回転の遊びを見せられて、彼女はダメだろうと思っていたものだから、本編で見違えた気がする。“リアル&フィクショナルの混交”という本作の核心部分を一人のキャラクターのなかで体現している中心キャラに据えられていて笑ってしまった。たとえゴジラの元となった核実験をしたのがアメリカでなくとも、日本でかような事態が勃発したらアメリカが介入してくるのは間違いないというリアルと、その介入の仕方は絶対にこれじゃなかろうとのフィクショナルを、実に漫画的な有無を言わさないキャラ造形によって果たしていた気がする。

 エヴァンゲリオンのシリーズでもそうなのだが、庵野秀明は女性キャラの造形に実に長けていると思う。しれっと醒めているようで時おり妙なる可愛げが差す毅然としたキャラが魅力的だ。シビリアンコントロールの節度を凛として体現していた花森防衛大臣(余貴美子)や、蔑ろ視線をものともせずに熱く冷静にレベルの高い職務を全うする尾頭環境省自然環境局野生生物課課長補佐(市川実日子)にしてもそうで、改めて感心した。

 いわゆる特撮ではなくCGをフルに活用した作品のようだが、画面にしっかり重量感が備わっていたし、日本映画離れした快作だと思う。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-457a.html
by ヤマ

'16. 8. 1. TOHOシネマズ7



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>