『島田陽子に逢いたい』['10]
監督 いまおかしんじ


 三年前の高知あたご劇場で楽しく学ぶ無料上映会”第4弾で観た『黄金の犬』['79]で島田陽子を久しぶりに目にした頃に、その名を作品名にした近作映画があると聞いて何だか不思議な女優だと思いつつ、気に留めていた作品だ。観てみたら、これまた妙に不思議な映画だった。

 胸も露わにラブシーンを演じていた御年57歳というのは、スイミング・プール['03]で裸身を晒していたシャーロット・ランプリングと同じ歳でのものとなるわけだが、島田陽子の場合は純然たるベッドシーンなので天晴れ感が増しつつ、併せて『スイミング・プール』に感じたような作り手の邪気が微塵も窺えないところが興味深かった。

 島田陽子を演じる島田陽子に対するインタビュー(生島ヒロシ)から始まり、ドラマが始まっても随時挿入されるので、劇映画に対するドキュメントの部分かと思っていたら、劇中映画に関してのインタビュー場面としての劇映画部分だったようだ。最初に生島の訊ねていた名前が五郎(甲本雅裕)ではなくて、コグレ某だったのは、つまりはそういうことであり、島田陽子(島田陽子)の強力なプッシュで五郎が演じることになった末期がん患者の役名がコグレ某ということなのだろう。

 生島のインタビューに答え、映画のなかの島田陽子と実際の島田陽子の違いについて、「重なる部分もあるけれど、映画のなかの島田陽子のほうがピュアで、そのぶん幼いような気がしますね」と島田陽子が語っていた島田陽子というのは、実は劇中映画のなかの島田陽子となるわけだから、ほとんど何も映し出されていなかったわけだが、そのインタビューが必ずしも劇中インタビューではないように受け取れるような島田陽子像が本作において造形されていたような気がした。なかなか手の込んだオマージュだ。

 本作への出演がその後のAV作品への進出の契機となったのだろうか。ハリウッドドラマ『将軍 SHOGUN 』['80]の主演女優に抜擢され、ゴールデングローブ賞のテレビシリーズ・ドラマ部門の女優賞を受賞し、国際女優ともてはやされた後も何かとスキャンダラスな報じられ方をしていたが、そういう危うさがまた不思議な魅力になっている女優なのかもしれない。

 さすがに『黄金の犬』を久方ぶりに観たときに感じたような二十代時分の気品にはもう及ぶべくもなかったが、名残りは窺え、美人うんぬんよりも声質と喋り方のもたらしているものが大きいのかもしれないと思った。往年の憧れの女優と末期のひとときを共にし、生への未練と執着が募ってくる喜びと苦痛にもだえる五郎を演じた甲本雅裕がなかなか良かった。

by ヤマ

'13.11.30. ちゃんねるNeco録画



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