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『オレンジと太陽』(Oranges And Sunshine) | |||||
監督 ジム・ローチ | |||||
映画は上映されて初めて映画になるのであって、そうでなければ、映画ではなく只のフィルムであるとは常々思っていることだが、歴史的事実というのも映画と同じで、たとえ記録されていても光が当てられなければ、決して映し出されることはない。そんなことを思わされる作品だった。 日本においても戦後間もない時期に、国民の全てを養うに足るだけの国民総生産高がなく、移民奨励政策による棄民が、主に南米に向けた国家的プロジェクトとして行われたわけだが、本作で描かれた英豪結託による棄民プロジェクトは困窮児童に標的を絞っている分、より非人道的な気がする。しかも'70年代まで続いていたというのだから、驚く。 映画の原作となったマーガレット・ハンフリーズ自身の著作に、本作がどこまで忠実なのかは定かではないが、親子の違いはあっても監督のローチ印は信頼のブランドで、本作に描かれた1986年から23年後に、両国政府がようやく正式に謝罪をしたというのも、また、それに足る歴史的事実があったのも間違いないことなのだろう。だが、多額の寄付が集まり、民間ベースで23年間も活動を続けてこられるだけの支持がありながら、政府対応にそれだけ時間がかかった理由というのも知りたいところだ。我が国での北朝鮮による邦人拉致問題、中国残留孤児問題などにも通じるものがあるのだろう。 また、歴史的事実に対する認識としての賛否という点では、沖縄戦集団自決問題や朝鮮人慰安婦強制連行問題にも通じるものがあって、両国政府とも、児童移民までは認めても映画に描かれたような移民先での児童虐待は一部であって、むろん国家的関与はないという立場だったのだろう。だから、マーガレットたちが活動を始めてから23年もの歳月を要したのだろうし、それだけの年月を経て事実解明が進んだというのではなく、例えば、日本の拉致問題のように、あくまでアジェンダ化する潮時を得ただけなのだろう。 映画としては、少し緩慢さと説明不足を覚える部分もあったが、題材そのものの持つ力が上回っていたように思う。マーガレット(エミリー・ワトソン)が食卓に広げた手紙の山を前にして、これは大仕事になるわと漏らした時には、さすがに四半世紀後も続ける大事業を覚悟していたとまでは思えないながらも、改めて襟を正すような決意をもって臨む風情が好もしかった。メディアの“取材”などとは、そこのとこが確実に違うソシアル・ワーカーの面目を感じさせて印象深かった。 推薦テクスト:「TAOさんmixi」より http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1845513806&owner_id=3700229 参照テクスト:NHKダークサイドミステリー『どこへ?消えた1万人の子どもたち〜隠された「児童移民」の闇〜』 | |||||
by ヤマ '13. 1.17. 美術館ホール | |||||
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