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『蛇にピアス』を読んで | |||||
金原ひとみ 著<集英社> | |||||
映画化作品を観たのは、もう四年前になる。吉高由里子(ルイ)の奮闘ぶりと艶技の下手さ、高良健吾(アマ)の健闘と、ARATA(シバ)の物足りなさ、という記憶が残っているそこそこの作品だった。 先ごろ観た『私が、生きる肌』までの身体改造ではないにしても、皮膚感覚への覚醒と強烈な自意識を促すであろうタトゥやボディピアスが十年ほど前にブーム化していた記憶があって、2004年に上梓された本著も、その流れのなかにある時勢もののような印象があった。 しかし、読んでみると、素材はサブカルファッションの“当時の”先端でも、メンタリティは随分と古典的な気がして、著者の生年を追ってみると '83年で、僕の25歳年下だった。ちょうど長男と同じ年の頃だ。本作が文芸誌「すばる」に掲載された2003年となれば、著者がちょうど二十歳のときの作品ということになる。 ルイもアマも本名に由来しながらも、その呼称はそれぞれルイ・ヴィトン、アマデウスによるものだと自称していたが、ルイ・ヴィトンの納得感に比してモーツァルトとは此れ如何にと思ってふと当たってみたら、本作発表の前年に『アマデウス ディレクターズ・カット』が公開されたりしていた(笑)。 映画化作品を観て「シバに、ルイを惹き付ける闇のもたらす怖さが宿っていないのも少々物足りないところだ。アマのほうは、可愛らしさと危なさの同居したスリリングさをどうにか感じさせてくれていたけど、シバについては、むしろ健康さのほうが印象付けられてた感じ。」と綴っていた部分は原作でもまさにそうだったから、忠実な再現とはなるのかもしれない。 「いいね。お前の苦しそうな顔。すげえ勃つよ」(P39)と言いながら、「私の髪を鷲づかみにして引っ張った。顎をガクガクと前後運動させていると、濡れてくるのが分かった。どこを触られた訳でもないのに濡れるなんて、便利なもんだ。 …「濡れてんの?」小さく首を縦に振ると、シバさんはまた私を抱き上げ寝台に座らせた。私は無意識に足を開いていた。軽い緊張が私を包む。Sの人の相手をする時、いつもこの瞬間私は身を硬くする。何をするか、分からないからだ。浣腸だったらいい、おもちゃもいいし、スパンキングも、アナルもいい。でも、出来るだけ血は見たくない。 …シバさんは、物を使う気はないらしく、私はホッとした。シバさんは指を二本入れ、何度かピストンさせるとすぐに引き抜き、汚い物を触ったように私の太股に濡れた指をなすりつけた。シバさんの表情を見て、また濡れていくのが分かった。「入れて」そう言うとシバさんは太股でぬぐった指を私の口に押し込み、口の中をまさぐった。「まずいか?」シバさんの言葉に頷くと口から指を引き抜き、そのままマンコに入れ、また口の中に戻し、口の中をまさぐった。 …「苦しいか?」同じようにまた頷くとシバさんは指を抜き、私の頭に手を当てて荒々しくシーツに押しつけた。顔と肩と膝で身体を支えると、下半身がガクガクした。「お願い、早く入れて」うっせーな、シバさんはそう吐き捨てて私の髪をつかみ、枕に押しつけた。シバさんは私の腰を高く上げるとマンコに唾を吐き、また指で中をグチャッとかき混ぜるとやっとチンコを入れた。初めからガンガン奥まで突かれ、私の喘ぎ声は泣き声のように響いた。気づくと本当に涙が流れていた。私は気持ちいいとすぐに涙が出る。満たされていくのが分かった。 …「もっと泣けよ」シバさんの言葉に、また涙が伝った。私は短く「イク」と呟き腰をガクガクと震わせた。イッた後、満足に動けないでいるとシバさんはめんどくさそうに私を押し倒し、上になった。…」(P39~P44)というセックスの後、「お前、アマと別れたら俺の女になれよ」…「付き合うんだったら、結婚を前提にな」などと言っているシバという男の造形が掘り込めていたら、もっと面白い作品になったような気がする。 だけど作者は、そこまでは己が筆の及ばないことを自覚したのか、突如行方不明になるアマに対するルイの心の動きを追うことに執心となり、物語的にはアマのほうが印象深く残る作品になっていく展開へと向かう。なんだかはぐらかされたような読後感が残った。 | |||||
by ヤマ '12.11.17. 集英社単行本 | |||||
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