『スマイル 聖夜の奇跡』
監督 陣内孝則


 物語の作りが些か幼稚に感じられ、悪乗り風に映るところもあるのだけれども、ハートのある作品というのは、多少の難点を押しやる力があるように思う。六年前に観たサトラレやら去年観た『君にしか聞こえない』のことを思い出した。

 監督第2作目の映画らしいが、相当に手慣れたもので、この作品の副題と同名の映画の手書き看板を舐めていくカメラワークから始まり、観終えた後に主題歌とも思える印象を残していく歌『リトル・ドラマー・ボーイ』のコーラスへと繋いでいた導入部からして、“手作り感”“映画好き”“音楽性”という、この映画製作における裏コンセプトのようなものを的確に、そして、明確に示していたような気がする。アイスホッケーに材を得た映画だと思っていたから、ちょっと意表を突かれたのだが、それだけに却って鮮やかさを印象づけていたように思う。

 そして、ミュージシャンから出発して、役者を経てこうして監督に至っている陣内孝則なれば、とりわけ“音楽性”において自負するところがあるのか、テンポやリズムといったところにとても気を遣っている様子が窺われたような気がする。単に楽曲の使い方ばかりではなく、連戦連敗だったチームへの素人監督 佐野修平(森山未來)の作戦指示の打ち出し方を描くテンポや、試合を勝ち上がるたびに“スマイラーズ”のメンバーが白血病で入院している礼奈を見舞って窓外でスティックを打ち鳴らす場面のリフレインにしても、非常に調子がよくて観ていて気持ちがよくなった。負け続けではあるけれども個々の力は決して劣ってはいないとの設定や、修平がじっと試合を見詰めながら策を考えているときに始終タップのステップを踏んでいて、頭だけでなく身体で考えている姿を映し出すのも気が利いていたように思う。アイスリンクで闘っている選手たちを前にして修平が激しいステップを踏んでいる姿が、まさしく選手たちの闘いにシンクロして修平も闘っていることを鮮やかに伝えているように感じた。

 圧巻は、やはり競技場一杯に『リトル・ドラマー・ボーイ』の合唱が響き渡る場面なのだろうが、僕は、その前段の“ロッカールームで修平が木机に飛び乗って痛む足を踏みならしながら奇跡を信じ闘う勇気を鼓舞する場面”に惹かれた。♪太鼓叩くよ ラパパンパ~ン♪という心構えで生きていこうというメッセージは、どうしたって若者向けではあるけれども、それにしても、今どきこういうストレートさを共感的に描こうとすると、小学生にまで低年齢化させなければならないのかというところに少々嘆かわしさを覚えるのと同時に、そうしておきながら、ちょうど『少林サッカー』と同じように、常勝軍団の“サンダーバーズ”をいかにもな敵役として、誇張した描き方をしているところが少し気に障った。漫画的に分かりやすくということなんだろうけれども、ちょっと戴けない感じがした。しかし、“聖夜の奇跡”にも、想外のちょっとしたひねりを利かせて描いていたし、全体を昌也(坂口憲二)の回想物語とすることで、少年期の思い出ゆえに過剰イメージが残っていることへの自然さを添える周到さが施されていたし、かなり手練れた映画づくりに感心させられた。それにしても、森山未來はいいね~。興行成績では『銀色のシーズン』に後れを取っているようだが、僕は『スマイル 聖夜の奇跡』のほうが好きだし、出来もいいと思う。



推薦テクスト:「とめの気ままなお部屋」より
http://blog.goo.ne.jp/tome-pko/e/49518f315949b0ca9b4f92b21af7f743
by ヤマ

'08. 1. 6. TOHOシネマズ3



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