『草の乱』
監督 神山征二郎


 三年前に上映されたときには仕事の都合が重なって観逃したのだが、自由民権記念館の特別展「三大事件建白運動120年記念-土佐自由民権運動群像」展の関連企画「三大記念映画上映会」の一本として、無料で鑑賞できた。

 「三大事件建白運動」というのは、高校時分に学んだ日本史でその名に聞き覚えがあるのだが、土佐の民権運動がここまで大きな主導的役割を果たしていたとは、知らなかった。建白運動の三大事件とは、①租税の軽減、②言論・集会の自由、③不平等条約改正に向けた外交失策の挽回で、記念映画の三作品は、あと『日本の青空』(大澤豊監督)、『赤貧洗うがごとき 田中正造と野に叫ぶ人々(池田博穂監督)となっている。『草の乱』は、1884年に起こった秩父事件の120周年記念作品として製作された映画だから、1887年の三大事件建白運動に、時期的には最も近い。政府弾圧で解党に追い込まれつつあった自由党の主張に共鳴した農民が、農民のみならず生糸商家や地主、博徒や地域の名望家らと共に、山県有朋率いる専制政府の圧政打倒をスローガンに蜂起していた。

 契機になったのは、法定金利を遥かに上回る高利で生活の苦しい農民に金を貸し、土地を取り上げていた金融業者を警察・裁判所が摘発するどころか、逆に賄賂によって結託し、貧富の格差が急速に拡大している状況であったように描かれていたが、このあたりの描き方には、作り手が現在の日本の状況を非常に強く意識していることが透けて見えた。

 そう考えると、当時の名望家 田代栄助(林隆三)や生糸商家の井上伝蔵(緒形直人)、博徒の親分 加藤織平(杉本哲太)、教員を辞して加わった士族の新井周三郎(比留間由哲)のような人物が想像しにくい時代になったものだと改めて思う。だからこそ、120周年記念のこの作品のチラシに、映画タイトルの文字の大きさと変わらないサイズで、線の太さはタイトルよりも太い文字で「120年前の日本に凄いやつらがいた!」とのキャッチコピーが刷り込まれているのだろう。

 エンドロールに出たボランティアエキストラ8000人の数字には仰天したが、埼玉県では、きっと語り継がれている大事件なんだろうと思った。ちょうど土佐の民権運動が、反政府運動とされていたものながら、地元では、こうして公立の記念館ができているように。

 印象深かったのは、北海道にまで逃げ延びた井上伝蔵が老いと病で死期を迎え、家族に本名を明かすとともに息子に秩父事件を語るときに、何よりも、鎮圧後、ただの暴動として扱われた無念を口にしていたことだ。ケン・ローチ監督の大地と自由の映画日誌に、「スペイン内乱」という名称について「スペインで起こったあの戦いが、歴史の教科のなかでは内乱や内戦といった形に矮小化されて表現されることに対する疑問と憤り」と綴ったことを思い出した。歴史を作るのは常に勝者としての権力者の側なのだ。他国には類を見ないレベルで国家権力に制限を課した“民主憲法のモデル”とも言うべき日本国憲法下においても、秩父事件やスペイン内乱の歴史がかように扱われているなかで、新しい歴史教科書をつくる会などの唱える自由主義史観や自民党憲法調査会による憲法改正国権強化の動きが現実化してくると、ますます知られざる歴史が増えてくることになりそうに思う。このような展示・上映企画を行っている公立の自由民権記念館の存在というのは、それだけに大きな意義を持っているような気がする。

by ヤマ

'07.11.17. 自由民権記念館民権ホール



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