『デブラ・ウィンガーを探して』(Searching For Debra Winger)
監督 ロザンナ・アークェット


  三年ほど前のアメリカン・ビューティー』の日誌に、長年観てきたアメリカ映画を通じて僕が感じ取っている“アメリカの美”とは、タフで頭がよくてセクシーであることによって、特別な存在として目立ち、成功するということだと綴ったものだったが、女優として今、いささか不遇な状況にあると感じているとおぼしきロザンナが34人もの女優にインタビューを試みたドキュメンタリー作品を観て、この“アメリカン・ビューティー”に懐疑を抱きつつも、最も強迫されているのは、そのアメリカ映画の“華”として銀幕を飾っている女優たち自身であることが、改めて偲ばれた。

 仕事としての女優業と家庭生活との両立の可否を基本テーマに据えていたようだが、僕には折々に顔を出す、アメリカの映画(界)にとっての女優の存在とは何か、を問い掛ける数々の不満や批判の言葉のほうが興味深かった。演技力よりも若さとセクシーであることが重要で、製作関係者にとっては何よりもヤレる女優かどうかが重要だという根深い不信感や不満、若さと美貌を維持するために三十代半ばから皺取りに勤しみ、整形手術をするのは当たり前との嘆息。そして、加齢による衰えをカバーのしようがないと自他ともに認めてもらえるまでの十年間(四十~五十歳もしくは四十五~五十五歳)は、じっと潜んでいるしかないとの冷ややかな諦観。さらには、それがヨーロッパでは、これほどに顕著かつ露骨ではなく、ハリウッドにおいて過剰に強迫されるものだという受け止め方。数多くの女優それぞれによって表現の仕方の濃淡に差はあるけれども、かなり共通して窺えたように思う。そして、テレビと映画の格の違いに対する思い入れの強さにも想像以上のものがあった。これらはどれも日本の女優においても同じように感じていることだろうという気がするが、それで言えば、やはりアメリカは何事においても、日本以上に顕著な状況を示しているし、他方、日本という国がいかにアメリカ追従型であるのかというか、諸外国に比して突出して、呆れるほどにアメリカナイズされていることを偲ばせもする。

 それはともかく、それでも映画女優という“創造性”豊かな職業は、一度脚を踏み入れたら離れられないステイタスのようだ。表現者としての女優業の魅力について、四十数年の間に49本の出演作を得て、わずかに8作品でしかないと言いながら、他では決して得られない充実感と恍惚をもたらしてくれると語っていたジェーン・フォンダの、引退して十年を経てとの言葉には説得力があった。また、何人かの女優は、多額の報酬を得て手に入れた生活レベルを落としたくない思いの強さを漏らしてもいた。だからこそ、第一線の女優を続けながら見事なまでの自己表明を貫き、かの四十歳で鮮やかな引退を遂げたらしきデブラ・ウィンガーがロザンナの憧れと関心の対象となったのだろう。日本で言えば、原節子なり山口百恵のような存在なのかもしれない。僕の目にも、多分十年近く前に観た『永遠の愛に生きて』以来となるデブラは、内面の充実に手応えを感じさせる存在感を伴った女性であるよう見受けられた。

 誰の言葉だったか、「今のハリウッドにアル・パチーノやショーン・コネリー、ジーン・ハックマンに当たるような女優がいる?」との問い掛けがあった。ジーン・ハックマンは、そういう位置づけにあったのかと少なからず驚くとともに、せいぜいでそれに近いところにいるのがメリル・ストリープとスーザン・サランドンだという扱いや並びには興味深いものがあった。また、僕と同じ年の生まれだったはずのシャロン・ストーンの貫禄に感心しつつ、彼女が女優として自分を落ち込ませるような演技巧者の名に挙げたジュリアン・ムーアとケイト・ブランシェットに納得を感じた。そして、おそらく十年前に観たボンデージ以来になると思われるテレサ・ラッセルや『ヤング・フランケンシュタイン』で名を記憶したテリー・ガーとの再会が懐かしく、きっと六十歳を越えているはずなのに、映画で観るよりもずっと若々しいヴァネッサ・レッドグレーヴに驚き、同じく実年齢を疑いたくなるようなジェーン・フォンダに感心した。

 それにしても、妹のパトリシアよりも姉のロザンナのほうが魅力があるように思うのに、シャロンの言葉にもあったように、むこうでは随分とパトリシアの評価が高いみたいで、何だか不思議な気がした。




推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました」より
http://yamasita-tyouba.sakura.ne.jp/cinemaindex/2003tecinemaindex.html#anchor000966
by ヤマ

'03.11.27. 美術館ホール



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