『プレッジ』をめぐって
神戸美食研究所」:タンミノワさん
TAOさん
ハリントン映画雑記帳」:ハリントンさん
ヤマ(管理人)


 

(タンミノワさん)
 ところで「プレッジ」も拝読しました。あの映画は「ダスト」と並んで今年、「見るんじゃなかった」映画の双璧となってるんですが(子供の惨殺シーンが多かったので)…。
 私は、ニコルソンが捜査という緊張感から足を洗えない男、という見方をあまりできなかったので、ヤマさん評は新鮮でした。というより、あの主人公の男がどういう人物なのか、最後までわかりかねたというのがあります。


(管理人ヤマ)
 新鮮でしたか、ありがとうございます。
 触れてくださった部分は、そのように御覧になった方もきっと少なからずおいでるはずだと思っていますが、真犯人は?のとこは、けっこう少数派だろうなぁーって自覚あります。少なくともスタンダードになる観方ではないでしょうね(笑)。


(タンミノワさん)
 被害者との「約束」ってのも、そんなに彼にとって十字架になっているようにも見えませんでしたし…。


(管理人ヤマ)
 そうなんですよ。実は、ここが僕にとってのポイントでした(笑)。
 例によっての観た後の反芻タイムで、なんでタイトルになってんだろうなって、あの予告編での「プレッジ」の扱いの仰々しさを思い返しているうちに、結局あいつにとっては、解決済みの事件としている昔の仲間たちに対して、いつまでも私的捜査を続ける口実でしかなかったよなぁ〜と思ったことからでした。
 じゃあ、そうまでして彼に執着させたのは何だったんだろーって(笑)。


(タンミノワさん)
 いやしかし、暗い映画でした。「ショーン・ペンってクラいな〜」私はアホみたいですが、この一言で片付けてしまいそうでした。


(TAOさん)
 いや、そのとおり(笑)。私は暗さを楽しみにショーン・ペンの映画を見に行ってる気がしますねえ。


(管理人ヤマ)
 これは『たそがれ清兵衛』のときと違って、あまり上品な食べ方ではありませんね(笑)。
 僕は、彼の監督作品を観たのは初めてだったんですが、クラいってことより、映画づくりが深いな〜って感心しちゃいました。


(TAOさん)
 ショーン・ペンはディープな映像作家ですよねえ。顰蹙を買うことはわかっていても、撮らずにはいられないという必然性を感じます。だから、残酷なシーンの描写もけっして悪趣味ではなく、正直に言うと、私にはとても美しく見えますね。
 この人は、あきらかに無意識が病んでいて、映画を撮ることで癒そうとしているように見えます。そこが私は好きなんですけど、自分でもあんまりいい趣味とはいえないなと思います(笑)。


(管理人ヤマ)
 ほほぅ〜、ショーン・ペンは、そういう方なんですか。僕は何せ、今回が1作目だから、とてもそこまでの印象は持ちようがないですが、TAOさんをして、このように感じさせる作品群というのは、とても気になりますねー。
 でも、そこまでコミットしちゃったら、趣味の善し悪し越えちゃって、何やら宿命的なご縁でしょう。次作も無論、観逃せませんね、TAOさんは(笑)。
 映画撮れないと、どうなっちゃうんでしょうね、彼。


(TAOさん)
 「クロッシング・ガード」のジャック・ニコルスンも、娘を失ったショックから立ち直れず、憑き物に憑かれたように、事故を起こした犯人を延々追っかける話でしたよね。妻は忌まわしい過去とは訣別して新しい生活を営んでいるのに。
 ヤマさんも、「プレッジ」のニコルスンが女の子を犠牲にしようとしたところに疑念を持っておいでのようでしたが、私には「誰か止めてくれ」と思いながらもやめられないという風に見えました。
 だから、止めてもらえて、ほっとした部分もあったんじゃないでしょうか。


(管理人ヤマ)
 『クロッシング・ガード』は未見ですが、ジェリーには少なくともそういう複雑な思いがあってほしいところですね。


(TAOさん)
 でも、引退を認めたくないという憑き物は完全には落ちてないから、この先も犯人を待つんでしょうけどねえ。


(管理人ヤマ)
 いよいよもう、それしか残ってませんからねー。現職時代は有効に機能した資質が、引退後は枷なり責めになるってとこ、いろんな職業にありますよね。ジョブを複数持ってないことの危うさって、秀でた技能を持っている人ほど強いですから。


(TAOさん)
 そうだ、ヤマさんの二重人格説は面白かったです。


(管理人ヤマ)
 てんで外れてたみたいですけど(苦笑)。あの目はヤバイと思いました(笑)。


(TAOさん)
 刑事には、そういうところがあるのかもしれませんね。自分の「影」としての犯罪者を追っているのかも。


(管理人ヤマ)
 腕利きほどそうだったりして(笑)。敏腕刑事が聞いたら、怒るか、笑い飛ばされそうですが。


(TAOさん)
 犯罪小説の読者も「自分の影としての犯罪者」追ってそうだなあ。
 私だけど(笑)。


(管理人ヤマ)
 官能小説の読者もそうでしょうか(笑)。


(ハリントンさん)
 結論から言って、「プレッジ」は映画版「狂人日記」であると思いました。ラストで、ジェリーがズボンの裾を少したくし上げ、ぶつぶつ言うシーンが現れますが、あれは出だしでもあったシーンでした。


(管理人ヤマ)
 そうでしたか(感心)。特に意識してませんでした。


(ハリントンさん)
 出だしにあり、結末にあるということは、はさまれた部分全部が回想だったということになるだろうと思います。


(管理人ヤマ)
 確かに、そういう観方もできるかもしれませんね。


(ハリントンさん)
 黒焦げになった人物が幼女殺害犯であるかないか、はっきりしないのは、回想をしている本人たるジェリーが狂人になってしまい、回想がその先にはもう進めなかったからなのではないでしょうか。
 「狂人ジェリーの回想物語」と理解すると、ストーリーの不自然な個所も、どのようにでもなんとでも解釈可能となります。


(管理人ヤマ)
 それは確かにそうですね(笑)。もっともその分、感情移入はしにくくなりますけど、ね。


(ハリントンさん)
 たとえば、「退職に際してはあれだけのパーティーを開いてもらえるほどの信頼感を職場で得ていたジェリー・ブラック」でありながら、手口の酷似した幼女殺害事件が、ある地域に限定されて、過去に数件起こっていた事実を示したときに、かつての同僚上司たちが一顧だにしない姿勢を示したのは、ストーリーの矛盾、破綻と思いますが、あの盛大なパーティが実は狂人ジェリーの幻覚の映像だったとすれば、矛盾ではなくなるという具合です。


(管理人ヤマ)
 もっとも、その一方で、映画の最後のほうの、元の同僚が「昔の彼はあんなじゃなかったんだ」と相棒に語る場面が、ちょっと収まり悪くなる気がしますが、あのパーティの過剰なまでの盛大さに注目されておいでなのは僕もそうだったので、非常に嬉しく思いました。
 僕は、あれがあったからこそ、退職して暫く経って後にさえSWAT要請を果たし得たんだろうと思うと同時に、嘗ての同僚たちからは、これが最後だぞって言われてたような気がしたものです。


(ハリントンさん)
 このままのペースで書き続けると異常に長くなりますので、ちょっと宣伝じみて恐縮でありますが、もう少し具体的解説は拙宅URLにリンクとして貼っておきますので、もしよろしければですが、そちらを見て頂ければと存じます。


(管理人ヤマ)
 拝見しました。非常に面白かったです。精神科医を登場させていることに注目されている部分にも、思わずニヤリとしました。


(ハリントンさん)
 「プレッジ」は、私にはどうにも面白くありませんでした。途中から早送りにしたくらいです。で、人はどう受取っているのだろうかと思い、まずはホームグランドを巡回してみたのですが、全般的にいって相変わらず、感情吐露、感情過多の映画評が多く話し相手としてはまるで話にならず、良い意味で理屈っぽく映画を見ている人を求めて検索したのでした。そうして、個人サイトとしては先頭に位置し ていたヤマ殿サイトに入り、その一文を拝読、これが極めて私に刺激的で、たちまち私の感想文ができたというわけなのでした。


(管理人ヤマ)
 なんとも光栄で、嬉しいお話です。自分の書いたものが、これほど確かに目に見える形での触発を果たし得たとは、まさしく、書き手冥利に尽きますよね。


(ハリントンさん)
 映画はつまらなかったけれども、その感想文を書くのは面白かったのでした。


(管理人ヤマ)
 僕にも覚えがあります。最近では『アフガン・アルファベット』なんかも日誌を綴るつもりをしていなかったのですが、ふと戴いたメールに触発されて綴りました。


(ハリントンさん)
 伝言板でヤマ殿が、「ジェリーの精神崩壊は」「いつまでたっても自分の勘の正しさを証明する真犯人に辿り着けない焦り」だと考えた、とご自身のサイトでの見解を繰り返されているのは誠にごもっともです。私が刺激を受けた一つはこの点でしたから。


(管理人ヤマ)
 ありがとうございます。


(ハリントンさん)
 「焦り」から精神の崩壊は起こらないのではないかというのが私の考えでした。


(管理人ヤマ)
 そうですね。焦りだけなら、現職中にもそういう事態に出くわしているでしょうし、それで狂気に至るというものでもないでしょうね。やはりジョブ剥奪によるアイデンティティ・クライシスをどの程度に受け取るかということのほうが大きいでしょう。でも、ハリントンさんから示された、物語の語り自体の全てがジェリーのモノローグではないかという観方も、かなり興味深くはありましたね。そういう観方をされる方がおいでても不思議はないよなーって。ある意味納得した部分もありましたから。


(ハリントンさん)
 そして、その他のページを拝見してみて、ヤマ殿は自分とは異なる見方を尊重される方であることがわかり、「リンクテキスト」用として提供しようと私は考えたのでした。


(管理人ヤマ)
 ありがとうございます。早速、次の更新で拝借いたします。


(ハリントンさん)
 クサイ言い方になりますが、自分とは異なる意見、異なる見方は自分の考えをより明確にし、言葉として正確に取り出す糸口になります。


(管理人ヤマ)
 おっしゃるとおりです。ご自身の意見として、それなりの深度と実感を備えておいでのものは、たとえ見解自体は異なろうとも、こちらにとっても糧となりますよね。


(ハリントンさん)
 自分の言葉で表面的でなく書かれた映画評ならば、むしろ自分とは異なる意見であったほうが読むのが面白いようです。


(管理人ヤマ)
 まったく同感ですね。面白いのは、絶対的にと言ってもいいですが、自分の持ってない意見に納得を感じるときですよね。自分と同じ意見は、とても嬉しいものですが、面白みでは劣ります。それぞれに、いいものですよね。


(ハリントンさん)
 そういう意味で、ヤマ殿の「プレッジ」評は「非常に興味深」く刺激的でした。


(管理人ヤマ)
 光栄です。ありがとうございました。
by ヤマ(編集採録)



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―