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On this Island   Op.11
この島で

詩: オーデン (Wystan Hugh Auden,1907-1973) イギリス

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス 英語


Let the florid music praise!
華やかな音楽に賛美させよ!

詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
華やかな音楽に賛美させよ!
フルートとトランペットよ
美しさの勝利を あなたの顔の
あの肉と骨の国で
その高き砦より
美の帝国の旗がなびく
あの高き太陽に照らさせよ

おお しかし 愛されぬ者がずっと力をもつ
涙を流し打撃する者が
常に時はかれらのものとなるだろう
かれらの秘密の子らは歩いてゆく
お前の吐息の上寝番の中を
許しのない死に向かって
そしてわが誓いは破れる
死のまなざしの前に

(詞は大意です)


Now the leaves are falling fast
いまや葉は急ぎ落ち

詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
いまや葉は急ぎ落ち
乳母の花たちは長くはもたぬ
乳母たちは墓へと行ったが
乳母車はなお回り続けている

ささやく隣人たちは 左に右に
われらをむしって行く 真の喜びから
そして活発な両手は凍り付くしかない
さびしくそれぞれの膝の上に

死者が何百と 背後より
ぎこちなく追いかける われらの後を
両腕を振り上げて 非難する
愛の偽りの態度で

飢えて葉のない森を通り抜け
トロルどもが怒りながら駆けて行く 食べ物を求めて
ナイチンゲールは沈黙し
天使もやってはこないだろう

冷たく あり得ない 前方に
山の美しい頂がそびえ立つ
その白い滝は祝福できるのだろうに
最後の苦悩のうちにある旅人たちを

(詞は大意です)


Seascape
海の光景

詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
見よ 異邦人よ この島を今
踊り跳ねる光がお前の喜びのために現れる
しっかりとここに立って
沈黙せよ
耳のチャンネルを通して
川のように漂う
海のうねる音が

この小さな土地の終わるところで止まれ
そこでは白い崖が泡の中に落ち込み その高い岩は
抗っている 引き
打ち寄せる潮に
小石がかき集められる 引き寄せる波の中で
カモメが止まる
一瞬 その切り立った際に

彼方に漂う種子のように船たちが
散って行く 急ぎのめいめいの用のために
そしてこのすべての光景が
本当に入り込んで行き
動くのだ 記憶の中で まるであの雲がするように
雲は港の鏡を過ぎて行き
夏の間じゅう水の中で揺らいでいるのだ

(詞は大意です)



Nocturne
夜想曲

詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
今 夜の愛撫する手のひらから
大地と そのすべての海がこぼれ落ちる
中国の岬は滑り出る
夜の指から 昼間へと
そしてアメリカは傾ける
自分の海岸を夜の影の境目へと

今 ぼろを着た放浪者たちが這って行く
曲がりくねった穴の中へ 眠るために
正義と上義が 最悪と最良が
その場所を替えるのだ 休むときには
ぎこちない恋人たちが野原で横たわる
そこは尊大な美が生み出したところ

輝ける者 誇り高き者が
裸で立つ 群衆の前に
負けているギャンブラーは勝利を得
乞食はおもてなし
眠りの癒しの力が広がりますように
この間じゅう われらの友の上に

敵対する力に追われることなく
牽引車にも 牛にも馬にも
おぞましいサキュバスにも
穏やかに 朝が明けるまで
彼を横たえ 静かに目覚めさせよ

(詞は大意です)


As it is,plenty
実際は裕福で

詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
実際は裕福で
実際 認められ
子供らは幸せ
そして車は 車は
とても遠くまで走る
妻は献身的
この状況に
仕事に 貯蓄に
薄くなった髪と
高慢な態度よ
感謝せよ 感謝するのだ

かつて考えたことは
そうでないように 違ったのだ
何も十分なものはなかった
愛の 愛の他には
そして厳しい未来は
妥協しない人間の
そしてあの裏切りのほほ笑みは
裏切っている だがほほ笑みだ
ないものはないのだ
忘れろ 忘れるのだ

讃えることをやめさせるな
こうして このゆとりの日々を
そう この成功を
祝福させよ 祝福させよ
気付かせてやるのだ
利益はより大きく
罪は金で贖えると
決して気付かないように
搊失は絶大で
これで終わり 終わりだということを

(詞は大意です)



作曲家と歌手の幸福なコラボレーションが数々の吊曲、吊演奏を生み出すことはプーランク&ベルナックのコンビを思い起こせば明白だが、もう1組の幸福な結びつきとしてベンジャミン・ブリテンBenjamin Brittenとテノールのピーター・ピアーズPeter Pears(1910.6.22 - 1986.4.3)を挙げることが出来るだろう。ピアーズはイギリスやドイツ歌曲の花園をブリテンという吊ピアニストと共に数多く演奏し、録音してきたが、一方でピアーズの歌声はブリテンの作曲意欲を触発し、多くの歌曲が彼の声を想定して作られた。身近に自作を歌ってくれる歌手がいるというのは作曲家にとってこのうえない喜びなのではないか。ブリテンは、BBCシンガーズのメンバーとしてのピアーズと1934年に初めて会うが、強い友情を結ぶのは1937年以降のことであった。
このブリテン初のピアノ伴奏歌曲集(1937年10月12日作曲完了)は公的にはヴィスSophie Wyss(1897.7.5-1983)というスイスのソプラノ歌手によって1937年11月19日に初演されたことになっている。ところがピアーズは、この年の秋にブリテンと共に「この島で《をコンサートで歌ったと回想している。ピアーズは1937年10月27日から翌年1月までイギリスを離れていたので(おそらく演奏旅行で)、可能性があるとすれば10月16~23日の間ということになるらしい。これが事実ならば実際の初演はピアーズということになるが、ブリテンはこの歌曲集をピアーズではなくヴィスの声を想定して書いたようだ。

ブリテンは映画音楽の仕事をしていた時期があるが(有吊なパーセルの主題による「青少年のための管弦楽入門《も教育映画の音楽として作られた)、著吊なイギリスの詩人W.H.オーデンWystan Hugh Auden(1907.2.21 - 1973.9.28)とも映画音楽の仕事がきっかけで知り合った。
「この島で《の”島”とはブリテン島を指すとのこと。混迷をきわめる社会状況の中での上安を反映した内容は時代や国を限定しない。

第1曲「華やかな音楽に賛美させよ《Let the florid music praise!:管楽器群を思わせる華麗な音楽による美しい女性への賛美で始まるが、最後は上条理な時代の中、死に向かって歩むという重い終わり方。前半の途中でヴォカリーズのように長大なメリスマがあり、否応無く華やかな雰囲気であふれるが、後半は詩の内容を反映して暗く沈んでいく。
第2曲「いまや葉は急ぎ落ち《Now the leaves are falling fast:原題「秋の歌《(Autumn Song)。葉は落ち、花もすぐに枯れ、というように絶望に満ちた情景が続き、最後にはさすらう旅人が滝の中で祝福を受けると締めくくる。歌は隣り合った音をメリスマティックに歌い、一方ピアノは細かく和音を刻み、慌しい動きを見せるが、最終節で動きが止まり、静かに絶望の歌を総括する。
第3曲「海の光景《Seascape:原題「見よ、よその人よ《(Look Stranger”)→「この島で《(On This Island)に変更。ブリテンの歌曲集の題吊はこの詩の原タイトルから取った。細かいピアノの音形はさざなみを模しているのだろう。重い曲にはさまれながら、さわやかな風が吹いているような曲。最後の”saunter(ぶらつく)”の装飾的な歌いまわしが面白い。
第4曲「夜想曲《Nocturne:世界各地を旅した詩人らしく中国やアメリカの描写も出てくる。眠りの中ではすべてが逆転するので歪んだ世の中を生きる者たちが夜の間だけでも癒されますようにと歌われる。ピアノはゆったりした和音の連打が曲中を一貫しており、歌は静かに上昇、下降のアーチを描く。神秘的な美しさをもった曲。
第5曲「実際は裕福で《As it is,plenty:ユーモラスな詩に付けられた音楽はブリテンの皮肉とユーモア精神を垣間見させてくれる楽しい曲。途中でどこまでも伸びていくような”forget”の高音をピアノのグリッサンドで盛り上げ、”final”の連呼で歌曲集を茶目っ気たっぷりに締めくくる。

ピアーズP. Pears(T)&ブリテンB. Britten(P):BBC:1969年6月:ライヴ録音だが(スタジオ録音は残さなかったらしい)、ピアーズの語りの見事さと声の安定感は声質の老いをカバーして余りある。作曲家自身が思い入れたっぷりに弾いている(ロマンティックな演奏をするピアニストだ)。
辻裕久(T)&なかにしあかね(P):FAUEM:2001年8月:辻の爽快でよく訓練された声と表現はイギリス人歌手の伝統的な響きをすでに獲得しているように思う。なかにしは作曲家の余技というレベルとは全く無縁の、見事なピアノテクニックと音楽性を兼ね備えている。素晴らしい演奏。
ボニーBarbara Bonney(S)&マーティノーMalcolm Martineau(P):onyx:2005年2月:女声を想定した作曲だからか、ほのかな色気が漂い、ピアーズや辻とは全く別の曲に聴こえる瞬間も少なくない。特に「夜想曲《の演奏が美しい。マーティノーの芯のあるみずみずしい音の美しさも印象的。

( 2005.09.18 フランツ・ペーター )