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萩原朔太郎に依る四つの詩  


詩: 萩原朔太郎 (Hagiwara Sakutarou,1886-1942) 日本

曲: 團伊玖麿 (Dan Ikuma,1924-2001) 日本 日本語


1 雲雀料理


ささげまつるゆふべの愛餐、
燭に魚蝋のうれひを薫じ、
いとしがりみどりの窓をひらきなむ。
あはれあれみ空をみれば、
さつきはるばると流るるものを、
手にわれ雲雀の皿をささげ、
いとしがり君がひだりにすすみなむ。

2 草の莖


冬のさむさに、
ほそき毛をもてつつまれし、
草の莖をみよや、
あをらみ莖はさみしげなれども、
いちめんにうすき毛をもてつつまれし、
草の莖をみよや。

雪もよひする空のかなたに、
草の莖はもえいづる。

3 遊泳


浮びいづるごとくにも
その泳ぎ手はさ青なり
みなみをむき
なみなみのながれははしる。
岬をめぐるみづのうへ
みな泳ぎ手はならびゆく。
ならびてすすむ水のうへ
みなみをむき
沖合にあるもいつさいに
祈るがごとく浪をきる。

4 笛


あふげば高き松が枝に琴かけ鳴らす、
をゆびに紅をさしぐみて、
ふくめる琴をかきならす、
ああ かき鳴らすひとづま琴の音にもつれぶき、
いみじき笛は天にあり。
けふの霜夜の空に冴え冴え、
松の梢を光らして、
かなしむものの一念に、
懺悔の姿をあらはしぬ。

いみじき笛は天にあり。


( 2017.10.01 藤井宏行 )