三つの小唄 |
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春の鳥
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昇菊(しょうぎく)の紺と銀との肩ぎぬに 鳴きそな鳴きそ春の鳥 歌沢の夏のあはれとなりぬべき 大川の金と青とのたそがれに 鳴きそな鳴きそ春の鳥 |
石竹(せきちく)
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花は出窓にいと赤し 障子閉めつつ 自堕落に 二人並んで寝そべれど 花はしみじみ まだ赤し 愚かなる花 小(ち)さき石竹 |
彼岸花
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針で突かうとした女 それは何時かのたはむれ 昼寝のあとに はつとして 今日も驚くわが疲れ 憎い男の心臓を 針で突かうとした女 もしや棄てたら きつとまた どうせ湿地(しめぢ)の 彼岸花 蛇がからめば 身は細る 赤い湿地の 彼岸花 午後の三時の鐘が鳴る |
まだ30代の作品ですが、邦楽のスタイルをクラシック歌曲に織り込むことでは橋本國彦の意欲的な取り組みを継承するかのような音楽で大変聴きごたえのある作品です。追分風のスタイルで旋律線が微妙に揺らぐ「春の鳥《、フランス歌曲を思わせるような微妙な転調を繰り返しつつもやはり日本歌曲としか言いようのない「石竹《、そして浄瑠璃の語りを聴いているかのような「彼岸花《(これは本当に橋本國彦の「舞《を思い起こさせます。あちらではまだ消化しきれていなかった西洋音楽と邦楽の語りの融合が、この曲では見事に出来ているように私には思えました)
こういうスタイルの歌曲ですから、関定子さんの歌の独壇場という感じです。Troikaレーベル(恵雅堂)に團の歌曲集録音がありそこに収録されています。
( 2016.11.29 藤井宏行 )