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Caligula   Op.52
劇音楽 カリギュラ

詩: デュマ父 (Alexandre Dumas père,1802-1870) フランス

曲: フォーレ (Gabriel Fauré,1845-1924) フランス フランス語


Prologue,scène 9
プロローグ(第9景)

(Les Heures du jour)
Nous sommes les Heures guerrières
Qui présidons aux durs travaux.
Quand Bellone ouvre les barrières,
Quand César marche à ses rivaux,
Notre cohorte échevelée
Pousse dans l’ardente mêlée
La ruse fertile en détours ;
Et sur la plaine,vaste tombe
Où la moisson sanglante tombe,
Souriant à cette hécatombe,
Nous planons avec les vautours.

(Les Heures de la nuit)
Nous sommes les Heures heureuses
Par qui le Plaisir est conduit ;
Quand les étoiles amoureuses
Percent les voiles de la nuit,
Près de la beauté qui repose
Vers un lit parfumé de roses,
Nous guidons César et l’Amour.
Et,là,nous demeurons sans trêve
Jusqu’au moment où,comme un rêve,
La blanche aurore nous enlève
Sur le premier rayon du jour.

<昼の時>
われらは戦いの時
激しい任務に専念する
ベローナが門を開き
皇帝が敵に向かって行進してゆく時に
われら髪振り乱した軍勢は
押し進むのだ 白熱の混戦の中を
豊富な策略を繰り出して
そして平原 広大な墓所の上
血塗られた刈り取りがなされる場所で
大虐殺にも笑顔で
われらはうろつき回る ハゲタカと共に

<夜の間>
私たちは幸せの時です
喜びに導かれて進む
愛情に満ちた星たちが
夜の帳を突き抜ける時
安らいでいる美のそばを
バラの香りのベッドに向かって
私たちは皇帝と愛とをお導きします
そしてそこに 私たちはずっと残ります
時が来て 夢のように
白い暁が私たちを連れ去るまで
一日の最初の光が


Acte V,scène 1
第5幕第1場

L’hiver s’enfuit,le printemps embaumé
Revient suivi des Amours et de Flore ;
Aime demain qui n’a jamais aimé,
Qui fut amant,demain le soit encore !

L’hiver était le seul maître des temps
Lorsque Vénus sortit du sein de l’onde ;
Son premier souffle enfanta le printemps,
Et le printemps fit éclore le monde.

L’été brûlant a ses grasses moissons,
Le riche automne a ses treilles encloses,
Le noir hiver son manteau de glaçons ;
Mais le printemps a l’amour et les roses.

L’hiver s’enfuit,le printemps embaumé
Revient suivi des Amours et de Flore ;
Aime demain qui n’a jamais aimé,
Qui fut amant,demain le soit encore !

冬は逃げ去り 香り立つ春が
戻ってきます アモールやフローラたちを連れて
明日は愛するようになるでしょう 愛したことのない人も
もうすでに恋人だった人は 明日もそのままです!

冬だけが唯一の時の支配者でした
ヴェニュスがその胸から波を放った時には
その最初の吐息が春を生み
そして春が世界を花咲かせたのです

燃え立つ夏には豊かな収穫があり
実りの秋には囲われたブドウ棚があります
暗い冬は氷のマントを着ている
けれど春には愛とバラがあるのです

冬は逃げ去り 香り立つ春が
戻ってきます アモールやフローラたちを連れて
明日は愛するようになるでしょう 愛したことのない人も
もうすでに恋人だった人は 明日もそのままです!

Acte V,scène 3
第5幕第3場

De roses vermeilles
Nos champs sont fleuris,
Et le bras des treilles
Tend à nos corbeilles
Ses raisins mûris.

Puisque chaque chose
S’offre à notre main,
Pour qu’elle en dispose,
Effeuillons la rose,
Foulons le raisin.

Car le temps nous presse
D’un constant effort!
Hier,la jeunesse,
Ce soir,la vieillesse,
Et,demain,la mort.

Étrange mystère!
Chaque homme à son tour
Passe solitaire
Un jour sur la terre;
Mais pendant ce jour...

De roses vermeilles
Nos champs sont fleuris,
Et le bras des treilles
Tend à nos corbeilles
Ses raisins mûris.

Puisque chaque chose
S’offre à notre main,
Pour qu’elle en dispose,
Effeuillons la rose,
Foulons le raisin.

真っ赤なバラで
私たちの野原は花盛り
ブドウ棚の腕が
伸びて来て 私たちのバスケットに
熟したブドウを差し出す

すべてのものが
私たちの手に入るのだから
慰みのために
摘み取ろう バラの花びらを
踏みつけよう ブドウを

なぜなら時はわれらを急き立てるのだ
常に変わらぬ力で!
昨日は 若者
今夜は もう老齢
そして明日には 死

奇妙な謎!
人は それぞれ順番に
孤独に過ごすのだ
一日を地上で
だが この日には

真っ赤なバラで
私たちの野原は花盛り
ブドウ棚の腕が
伸びて来て 私たちのバスケットに
熟したブドウを差し出す

すべてのものが
私たちの手に入るのだから
慰みのために
摘み取ろう バラの花びらを
踏みつけよう ブドウを

Acte V,scène 5
第5幕第5場

César a fermé la paupière,
Au jour doit succéder la nuit;
Que s’éteigne toute lumière,
Que s’évanouisse tout bruit !…

À travers ces arcades sombres,
Enfants aux folles passions,
Disparaissez comme des ombres,
Fuyez comme des visions.

Allez,que le caprice emporte
Chaque âme selon son désir,
Et que,close après vous,la porte
Ne se rouvre plus qu’au plaisir.


皇帝はまぶたを閉じました
一日のあとに夜が来るのです
それはすべての光を消し去り
すべての物音を静めます!...

その暗いアーケードを通って
情熱に狂った子らよ
影のように消え去りなさい
幻のように逃げ去りなさい

お行きなさい 気まぐれには運ばせるのです
めいめいの魂を その欲望の求めるままに
そしてあなたたちの後ろで閉じられた扉は
再び開かれるのです 喜びによってのみ


紀元前のローマ皇帝カリギュラをテーマにしたデュマ(父)の戯曲「カリギュラ《は1937年の初演時はあまり評判にならなかったようですが、なんとそれから半世紀近く経った1888年に再演されるにあたり、デュマ(子)の希望もあってフォーレによってその劇音楽がつけられることになりました。ただ、あまりに再演が急に決まったもので作曲にかけられる期日が数ヶ月しかなく、結局プロローグの最後の部分と第5幕だけに限られ、皇帝が凱旋してくるプロローグの場面、ファンファーレに続く行進曲に乗せて勇壮な「昼の時《とたおやかな「夜の時《がいずれも女声合唱で歌われます。映画音楽のような濃密な仕上がりはこれがフォーレとは思えないような響きですが、和声などに彼の音楽の片鱗がわずかに窺えてなかなかに興味深いところです。
続いての第5幕はカリギュラが暗殺される最後の場面ですが、1場には春の訪れを爽やかに喜ぶ女声合唱、その後軽快な舞曲をはさんでこれまた楽しげな女声合唱が第3場に置かれています。いずれも耳になじみやすい音楽で、春の喜びがじんわりと感じられます。
最後の第5場は皇帝が暗殺されたあとに歌われる、これも女声合唱ですが、やすらかな響きはあの傑作「レクイエム《を思わせる美しさです。劇音楽なので多少生々しさはありますけれども。
プラッソンとトゥールーズ市立管弦楽団、ブルボン・ヴォーカルアンサンブルのEMI盤が知る限り唯一の録音ですが、なかなか良い感じの演奏でした。

( 2016.01.11 藤井宏行 )