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童謡百曲集 第1巻 続き  


詩: 野口雨情 (Noguchi Ujyou,1882-1945) 日本

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 日本語


11 よいよい横町


よいよい横町で
   見た月は 見た月は

半分かけてた
   朝の月 アノ朝の月

お空にぼんやり
   出た月は 出た月は

夢見て寝ぼけた
   昼の月 アノ昼の月

兎がお餅を
   搗く月は 搗く月は

十五夜お月で
   丸い月 アノ丸い月


12 俵はごろごろ


俵は ごろごろ
   お蔵に どつさりこ

お米はざつくりこで 
   チユチユ鼠は につこりこ

お星さまぴつかりこ
   夜のお空でぴつかりこ


13 兎が来い


山から来い
   兎が来い

月夜になるから
   山道来い

いそいで来い
   里見て来い

お山の兎が
   みんなで来い

遊びに来い
   はねはね来い

お餅を搗くから
   お庭へ来い


14 狐の提灯


狐の提灯 ポゥ

ポゥポゥ狐の
提灯行列 ポゥ

陸(おか)は万作(まんさく)だ 
天からお金が降って来る

浜は大漁だ 
海からお金が湧いて来る

狐の提灯 ポゥ

ポゥポゥ狐の
提灯行列 ポゥ


15 雪こんこん


サート サラサラ
   サート サラサラ

雪雪 こんこん
   降つて来な

泣く子はお家(うち)へ
   ひつこみな

サート サラサラ 
   サート サラサラ

山から粉雪
   降つて来な

泣く子のお眼(めめ)へ
   飛んでゆきな


16 烏の番雀の番


烏が種蒔く
    雀が見てゐる

雀が種蒔く
    烏が見てゐる

烏は雀の
    番してる

雀は烏の
    番してる

雀も困つた
    烏も困つた

雀も烏も
    困つちやつた


17 鳶のお昼寝


枯れ木にとまつて
    鳶がお昼寝
  
落ちたらあぶない 
    ピーヒヨロ ロー

枯れ木でお昼寝
    鳶が夢見た

飛ばぬとあぶない
    ピーヒヨロ ロー


18 茶柄杓


甘茶が わいた 
茶がわいた

お寺の茶釜に
いつぱい わいた

柄杓で汲まなきや 
汲まれない

柄杓で汲んだりや 
ちよいと汲めた

お釈迦さんにちよいと汲んで
ちよいとあげた


19 霜夜の狐


寒い声出した 
霜夜の狐 
   コンコン
     コン

その声ァ寒い 
も一度出せよ
   コンコン
     コン

永い夜は寒いナ 
寒い夜は永いナ
   コンコン
     コン


20 カッコ鳥


山で カツコ カツコ
      カッコ鳥啼いた

山で カツコ カツコ
      あの啼く声は

「雨の降る
   日にや
      雨傘ほしや」

「暗い
   闇夜にや
      提灯ほしや」

山で カツコ カツコ
      カッコ鳥啼いた

高い山から 
    里みて啼いた



童謡百曲集、白秋に続いては野口雨情の詩につけた曲が10曲、先に書きました通り耕筰が長距離通勤の傍ら書き溜めた童謡ということで、この10曲は耕筰が電車の中に持ち込んだ「螢の燈台」(新潮社童謡詩人叢書2)からすべて取られています。
雨情の詩に付けた童謡といえばまずは中山晋平、そして本居長世のものが真っ先に思い浮かぶところですが、耕筰のあまり泥臭いところのないメロディで紡ぎ出される雨情ワールドというのもこれはこれで面白い聴きものです。この10曲の中では本居長世のつけた曲が圧倒的に良く知られている「俵はごろごろ」もここではブラームスの歌曲のように楚々と美しい欧風歌曲になっていてアッと驚かされました。他にも中間部の明るい転調がマーラーの歌曲のようなユーモアを感じさせる「狐の提灯」や小気味のいい早口で笑ってしまうようなシチュエーションを描き出す「烏の番雀の番」などが時折耳にできるでしょうか。

( 2015.10.31 藤井宏行 )