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童謡百曲集 第3巻  


詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 日本語


41 お米の七粒


坊やよ、おききよ、おぼえとき、
父さん貧しいその時は、
お米が七粒、銭は無い、
一羽の雀に粒一つ、
七羽の雀に粒七つ、
雀は啼き啼き食べてゐた。
父さん雀と遊んでた。


42 日永


卵はおつとり殻の中 
雛(ひよこ)のあたまをまろめてる。

雛のあたまはまろめられ、 
お眼々をあけよと待ってゐる。

お眼々をあけよと待つ雛、 
雛の親鶏、ぬくめ鶏。

雛の親鶏、ぬくめ鶏、
日向をまじまじながめてる


43 竹取の翁


野山かせぎのお爺さま、   
   (竹取の翁だ、竹取の翁だ。)
いつも竹取、笹かつぎ。
   (いい翁だ、いい翁だ。)

ある日、ありやりやと驚いた。
   (ピカリピカリ光つた。ピカリピカリ光つた。)
竹の根方に豆の人。
   (ちつちやい姫だ、ちつちやい姫だ。)

その子ひろうて、お爺さま、
   (ほくほく帰つた、ほくほく帰つた。)
鳴くは鶯、よい日和。
   (ホウ、ホケキヨよ。ホウ、ホケキヨよ。)

これよ婆さま、眩(まば)ゆかろ、
   (家まで光るぞ、家まで光るぞ。)
おお、おお、かはいい、お爺さま。
   (かぐや姫だ、かぐや姫だ。)

それからしあはせ、篠の藪、
   (いつ行つてもだ、いつ行つてもだ。)
竹のふしぶし、金のつぶ。
   (ホウ、ホケキヨよ。ホウ、ホケキヨよ。)

むかしむかしのお爺さま、
   (竹取の翁だ、竹取の翁だ。)
お伽ばなしのかぐや姫、
   (それから、きかして、それから、きかして。)

(括弧の中は合唱で歌われます)


44 仔馬の道ぐさ


道草しずと、
早よ駆け、仔馬。

かるかや、桔梗、 
すすきの原を。
とつとと走れ。

お母さんの馬は 
こちら向いて待つに。

追ひつけ、仔馬、 
秋風吹くに。
とつとと走れ。


45 郵便くばり


郵便くばりの来る頃は、
唐黍畑の入日どき、
つくつくほうしも鳴き立てる。

郵便くばりの来る影は
いつでもぽつつり、山のすそ、
帽子のひさしが光ります。

郵便くばりの来る道は、
さやさや黍の葉、紅い房、
両手をふりふりまゐります。

郵便くばりの小父さんは
いつもの鞄で、青い鬚、
お鬚の中から笑つてる。

郵便くばりは日に一度、
唐黍畑の入日どき、
「はいはい、坊や、またあした。」

郵便くばりは待ち遠い。
つくつくほうしよ、まだ来ぬか、
誰かの手紙が来はせぬか。


46 あわて床屋


春は早うから川辺の葦に、
蟹が店出し床屋でござる。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

小蟹ぶつぶつ石鹸(しやぼん)を溶かし、
親爺自慢で鋏を鳴らす。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

そこへ兎がお客にござる。
どうぞ急いで髪刈っておくれ。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

兎ァ気がせく、蟹ァ慌てるし、
早く早くと客ァ詰めこむし。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

邪魔なお耳はぴよこぴよこするし、
そこで慌ててチヨンと切りおとす。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

兎ァ怒るし、蟹ァ恥よかくし、
爲方(しかた)なくなく穴へと逃げる。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。

爲方なくなく穴へと逃げる。
  チヨツキン、チヨツキン、チヨツキンナ。


47 この道


この道はいつか来た道、
  ああ、さうだよ、    
あかしやの花が咲いてる。         

あの丘はいつか見た丘、
  ああ、さうだよ、
ほら、白い時計台だよ。

この道はいつか来た道、
  ああ、さうだよ、    
お母さまと馬車で行つたよ。

あの雲もいつか見た雲、
  ああ、さうだよ、
山査子の枝も垂れてる。


48 風


風は窓かけあけに来る。
山の小鳥を連れて来る。

風はお窓に置いてゆく。
パンとポプラの葉をひとつ。

風はやさしい母さんの
朝のお声を持つて来る


49 J・O・A・K


蕗のはやしのかたつむり、 
しろいお家(うち)をたてました。

しろいお家のかたつむり、
角のアンテナ出しました。

ここは樺太(からふと) 眞岡道(まおかみち)
馬の背よりも高い蕗。

角のアンテナかたつむり、
J・O・A・K きいてます。


50 ちんちん千鳥


ちんちん千鳥の啼く夜さは、 
啼く夜さは、
硝子戸しめてもまだ寒い。 
まだ寒い。

ちんちん千鳥の啼く聲は、 
啼く聲は、
燈(あかり)を消してもまだ消えぬ。 
まだ消えぬ。

ちんちん千鳥は親無いか。
親無いか。
夜風に吹かれて川の上。 
川の上。

ちんちん千鳥よ、お寝(よ)らぬか。 
お寝らぬか。
夜明けの明星が早や白む。 
早や白む。



第3巻で再び北原白秋の詩による童謡が10曲取り上げられます。歌のテーマの選択でも、音楽のスタイルでもかなり意欲的になってきて(かぐや姫を題材とした「竹取の翁」ではついにバックコーラスまで登場します)実に面白い10曲です。中には耕筰の代表作にも挙げられる「あわて床屋」と「この道」が含まれていますね。「この道」は私はそんなに秀逸とは思わないのですが「あわて床屋」は大傑作だと思っております。しみじみとした味わいの「お米の七粒」や愛らしい「日永」、「竹取の翁」は真面目に歌われるとちょっと噴き出してしまいそうですが、素朴な「仔馬の道ぐさ」にロシア民謡のような味わいの「郵便くばり」、さわやかな「風」にテーマが斬新な「J・O・A・K」(今のNHK・ラジオ第一放送の東京放送局のコールサインです。NHKラジオの代名詞としてJOAKが使われたのかも。ちなみに当時サハリンにあった放送局(豊岡:現在のユジノサハリンスクはJDAKだったのだそうです)、そして近衛秀麿のつけた曲が圧倒的に有名なものの、それに決して遜色ない(というか非常に良く似ている)「ちんちん千鳥」と、有名曲以外の8曲もなかなか捨てがたい魅力です。残念なことに滅多に聴くことはできないのですが。

( 2015.10.23 藤井宏行 )