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童謡百曲集 第1巻  


詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 日本語


1 酸模の咲く頃


土手のすかんぽ、
ジヤワ更紗

昼は螢が
ねんねする。

僕ら小学、
尋常科。
 
今朝も通つて、
またもどる。

すかんぽ、すかんぽ。
川のふち。

夏が来た、来た、
ド、レ、ミ、ファ、ソ。


2 足踏


足踏(あしぶみ)してゐる 
僕たちは。

空にはながれる、
よい雲が。

海にはさざなみ、
ちらちらだ。

学校の外庭 
ひとまはり。

まはつて、足踏、 
僕たちは。

山茶花咲け咲け、 
鐘が鳴る。


3 ほういほうい


ほういほういと呼んでます。
誰か埠頭(はとば)に呼んでます。
 
 ほそい月出る
 眞夜なかに
 お目々あいてる
 子はないか。
 
雲のきれめのすぐそこに
い四角な燈をつけた、
二本マストが泊つてる。


4 夜中


おうちの寝間で 
わたしは寝てた。
あかりが點いて 
人ごゑしてた。
 
見知らぬ部屋に 
わたしは寝てる。
あかりが點いて 
人ごゑしてる。

どこだか知らぬ、 
誰だか知らぬ。
あかりが點いて 
人ごゑしてる。


5 からまつ原


からまつ原の 
ちらちら薄日。

かばんをかけた 
子供が通る。

泣きたいやうな 
さみしい春だ。

どこかで、鳥が 
ちつちと鳴いた。


6 お月夜


トン、
トン、
トン、
あけてください。
どなたです。
わたしや木の葉よ。
    トン、コトリ。

トン、
トン、
トン、
あけてください。
どなたです。
わたしや風です。
    トン、コトリ。

トン、
トン、
トン、
あけてください。
どなたです。
月のかげです。
    トン、コトリ。


7 たあんき、ぽうんき


たあんき、ぽうんき、たんころりん
田螺(たにし)がころころ啼いてゐる

たあんき、ぽうんき、たんころりん
鴉(からす)が田螺をつついてる

たあんき、ぽうんき、たんころりん
蛙が目ばかり出してゐる

たあんき、ぽうんき、たんころりん
ちんちん電車もやつて来る

たあんき、ぽうんき、たんころりん
お彼岸まゐりもつづいてる。


8 たんぽぽ


沼の田べりのたんぽぽは、
たんぽほは、
咲けば、ざぶりと、
波が来る。

 たんぽぽ。たんぽぽ。
 波が来る

沼の田べりのたんぽぽよ。
たんぽほよ。
咲けば、子どもが、
舟で来る。

 たんぽぽ。たんぽぽ。
 舟で来る。


9 お月さま


お月さまいくつ、
十三七つ。
七つの海を、
朝から越えて、
南のはてで、
闇の夜になつて、
ちつちやいペンギン鳥(てう)が、  
氷の原を、
あつちの星や青いぞ、
こつちの星や赤いぞ。


10 雀追ひ 山椒太夫その二


安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 ここは荒海、佐渡ケ島、
 雑太(さはた)の庄の里はづれ。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 二人が母さま、ぼろぎもの、
 めんめめくらで、竿もつて。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 追つても追つてもむら雀、
 干した蓆(むしろ)の粟のうへ。

安寿こひしや。ほうやれほ。
厨子王こひしや。ほうやれほ。
 遠い薄陽にほうやれほ、
 雀追ひ追ひ、ほうやれほ。



1926年、設立していた日本交響楽会(今のNHK交響楽団)の内紛もあって、夏に耕筰は自宅を東京の麻布から神奈川の茅ヶ崎に移します。それでも仕事は東京で行っておりましたので茅ヶ崎から東京を頻繁に通うこととなりました。この通勤時間を有効に使おうということで耕筰は童謡の詩集を車中に持ち込み、気に入った詩にメロディを付けて行きました。まさに現代の長距離通勤族の時間活用術のはしりのような話ですが、それが膨大な数貯まってきましたので日本交響楽会出版部より童謡100曲集として出版することにしたのでした。「あわて床屋」や「この道」「赤とんぼ」といった耕筰の代表作もそこかしこに織り込まれていて注目に値する作品集です。その第1集は1927年の6月10日刊。1〜10曲が北原白秋の詩、11〜20曲が野口雨情の詩です。白秋の10曲は7曲目の「たあんき、ぽうんき」を除きすべて新潮社の童謡詩人叢書1「からたちの花」より取られています。明らかにこの本が耕筰の車中に持ち込んだ詩集本のひとつですね。
第1曲「酸模(すかんぼ)の咲く頃」は今でも時折歌われる人気の童謡。意味はいまひとつ現代の都会人には理解不能ですがうきうきする楽しさが何とも素敵です。今は小学尋常科というのはありませんから語呂を合わせて「小学六年生」と歌詞を変えて歌われることもあります。第2曲「足踏」も陽気で楽しい行進曲ですがちょっとシンプル過ぎて印象に乏しいかも。第3曲「ほういほうい」はしみじみと美しい曲。もっと聴かれても良いように思います。第4曲「夜中」・第5曲「からまつ原」は再びシンプル。第6曲「お月夜」は詩が面白いですね。耕筰の曲もメロディはシンプルですが曲想は変化がついていてユニークです。第7曲「たあんき、ぽうんき」、同じタイトルですが詩は山村暮鳥の詩に中田喜直がメロディを付けた作品の方が良く知られています。同じようにタニシを突くカラスという描写です。調べてみると暮鳥の詩がオリジナルで、白秋のものはこれに想を得て書いたものなのだとか。この詩のみは雑誌「コドモノクニ」1925年4月刊に掲載されていたものです。暮鳥-喜直の霊感あふれる作品に比べると率直に言って印象は薄いです。第8曲はユーモラスなメロディがちょっと可愛いです。これは詩のインパクトが弱いのが損をしていますでしょうか。第9曲「お月さま」はわらべ歌調かと思いきや軽快な軍隊ラッパのような曲でこれはこれで魅力的です。ペンギンとか出て来るのもイイですね。最後の「雀追い」は有名な説話「山椒大夫」からですね。1924年に本格的な歌曲を同じ詩で書いていますがここではシンプルな童謡にしています。

( 2015.10.19 藤井宏行 )