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Two rabbit songs  
うさぎのうた 二編 (1918)

詩: 竹友藻風 (Taketomo Soufuu,1891-1954) 日本

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 英語


T
第一

“Rabbit,rabbit,jumping rabbit,
Joyful rabbit,stay a bit!
At what are you looking,
What are you thinking,
Jumping,leaping,thro' the night?”

“I am not joyful,baby dear.
I wish the moon were a little near,
There is my home; I want to go there.
Jumping,leaping,looking queer.”

「うさぎ うさぎ とぶうさぎ
うれしいうさぎ ちょつとお待ち
何をおまへは眺めてゐるの
何をおまへは思つてゐるの
とんだり はねたり よもすがら」

「坊や わたしはうれしくないよ
月がもちつと近くてほしい
あれがおうちだ 行きたいと
とんだり はねたり 妙な顔」

U
第二

“The rabbit of our garden way,
The rabbit of my darling,
Jump rabbit,and come and say,
Why are your ears so long?”

“Twas only my mother who bit my ears,
The rabbit was her darling.
She bit and pulled,I knew not why. Ah,ah,ah!
Now my ears are so long.”

「おうちの庭のうさぎの子
可愛いぼうやのうさぎの子
とんでお出でよ どうして
おまへのお耳は長いのか」

「お耳を噛んだは母うさぎ
うさぎは母の大切の子
噛んだり 引いたり その果に
お耳はこんなになりました」


1918年7月の作曲。作詞者にクレジットされている竹友藻風(1891-1954)という名がちょっと見国文学の人のように見えますので日本語の歌かと勘違いしますが、実はこの人は詩人で英文学者、大阪大学の教授まで勤めておられたのです。ということでこの歌、この藻風自身が書いた英語の歌詞を持つ歌なのです。竹友藻風の著作権はだいぶ以前に切れておりますから、彼の手になる日本語の訳も一緒に掲載しております。作曲の年の10月、ニューヨークのカーネギーホールで予定されていた山田耕筰の管弦楽作品発表会に出演予定だったソプラノのアメリア・ガリ=クルチのために書き下ろしたもの(たまたま藻風がニューヨーク・コロンビア大学に留学中だったので耕筰が押しかけて作詞を依頼したのだとか)でしたが、結局ガリ=クルチは出演せず演奏されることなく終わってしまいました。代わりに出演したバリトンのクラレンス・ホワイトヒルによって「二つの古代日本の伝統的譚詩」が歌われております。
さすがに詩人で英文学者とは言いつつも、突然頼まれた英語の詞ですからあまりパッとした内容にもならず、小気味よい音楽ではありますがそれほど卓越したメロディではない(しかも英語で歌わなくちゃなりませんし)今や歌われることもない幻の曲となっていますが、もしあの往年の名歌手ガリ=クルチが歌った吹き込みでも残っていたなら果たしてどうなっていただろうととても興味深いところです。

( 2015.09.21 藤井宏行 )