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Two Legendary Poems of Old Japan  
二つの古代日本の伝統的譚詩(1918)

詩: マーテンス (Frederick Herman Martens,1874-1932) アメリカ

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 英語


1 The Bell of Dojoji
1 道成寺の鐘

Anchin the Monk,beside the marshy pool,
Met Kiyohime,the lady merciless.
She smiled,and touched his rosary. At her caress
His vows were all unsaid,and she his heart did rule.

Vainly he prayed in shaded cloister hall,
To be delivered from her hateful spell;
With poppies crowned she entered in his moon lit cell.
He fled into the night,yet she pursued her thrall.

Vainly he won Dojoji's templed shrine,
Beneath its bell of bronze a refuge sought;
For Kiyohime the bell-rope cut. The monk was caught!
While o'er the bell she crept like some lithe,clinging vine.

Her green robe glitt'ring into golden scales,
She turned a fearsome dragon,breathing fire;
The bronze bell red-hot glowed,lashed by her tail in ire,
Ere died away poor Anchin's piteous cries and wails.

安珍 この僧は 沼のほとりで
清姫に出会った 無慈悲な乙女に
彼女はほほ笑み 彼の数珠に触れた 彼女の愛撫に
彼の誓いは語られずとも 彼女は彼の心を支配した

むなしく彼は祈った 翳る僧院の広間で
逃れるために 彼女の憎々しい呪縛から
ケシの花を冠に 彼女は入ってきた 彼の月照らす小部屋に
彼は夜陰の中へ逃げたが 彼女は追った その奴隷を

むなしく彼はたどり着いた 道成寺の社に
その青銅の鐘の下に 彼は逃げ場を探した
だが清姫がその綱を切ったので 僧は捕らわれたのだ!
その鐘の上に 彼女は纏わりついた しなやかなブドウの蔓のように

彼女のきらめく緑の衣は金の鱗となって
彼女は化身した 火を吐く恐ろしき龍に
青銅の鐘は赤熱し 彼女の尾は怒りで打ちつけられた
哀れな安珍の叫びや嘆きが消え去ってしまうまで

2 Song of the Dancer of Yedo
2 江戸の踊り子のうた

Gether the yellow sand of the sea,
And spin me a fine thread,a fine,fine thread!
So said my mother.
Hard,hard,is my task!

Take this basket of wattle woven,
And fetch me some water from distant spring!
So said my father.
Hard,hard,is my task!

All that my poor heart aches to recall
It must try to forget,try to forget.
Hard,hard,is my task!

集めな 海の黄色い砂を
それで紡ぐんだよ きれいな糸を きれいな きれいな糸を
そう命じたのさ あたしの母さんは
つらい つらい あたしの仕事!

持って行け この枝編みの籠を
そして汲んで来い 水を遠くの泉から
そう命じたのさ あたしの父さんは
つらい つらい あたしの仕事!

思い出すとこの胸が痛む すべてのことを
忘れさせなくちゃ 忘れさせなくちゃ
つらい つらい あたしの仕事!


1918年10月にアメリカ、ニューヨークのカーネギーホールで開かれる耕筰の作品発表演奏会のために書かれたものです。
もともとは管弦楽作品のみの予定であったのが、歌曲もあった方が良かろうということになり、急遽8月に作曲されたものです。
詩のフレデリック・マーテンス(1874-1932)は音楽評論家なのだそうで、正直あまり詩心があるようには思えない内容ではありますが、このような題材の英語の詩に耕筰がメロディをつけ、そしてオーケストラ伴奏でカーネギーホールで歌われたというだけでも非常に興味深いところです。初演はクラレンス・ホワイトヒルというバリトン歌手が務めました。
初演のオーケストラ版の楽譜は失われ、今はのちに編纂されたピアノ版の楽譜を見ることができるのみですが、緩急自在の第1曲、小気味の良い第2曲ととても面白い曲です。タイトルの邦訳は個人的には気に入らないところもありますが楽譜の記述そのままで、日本語訳は楽譜では作詞家の青木爽のものが載っておりましたが著作権の関係で転載できませんので私が自分で訳したものをここでは載せております。

( 2015.09.20 藤井宏行 )