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沙羅  


詩: 清水重道 (Shimizu Shigemichi,1909-1958) 日本

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本 日本語


1 丹沢


枯れ笹に陽(ひ)が流れる、背に汗
うらうらと雲さへも、冬なのに
尾根長く檜洞(ひのきぼら)こえて響く澤おと
どの山も崩土(がれ)の色だけは凍(い)ててゐる

塔のむかふ町並み光らせて秦野(はたの)
見やる天城(あまぎ)も明るい草附き
雪の来ぬ冬山のくぼに 煙草吸うて見る
ひとり


2 あづまやの


あづまやの
まやのあまりに
立ちぬれて
殿(とん)の戸あけと
云ひし人もが

鎹(かすがひ)も扃(とざし)もなしと
云ひし人もが
五月雨を
わが訪ひくれど
門さして
君はいまさず
憎くや
この君


3 北秋の


北秋(きたあき)の
峡(かひ)のこヾしき道のくま
わが見し花に
吊づけてよ 君

いなむしろ
君によそへて
呼ばましものを

みつみつし
白く小さき
北秋(きたあき)の花


4 沙羅


林、音なく
日の暮は
ゆめのごとし

眞玉(またま)夕つゆ
おもくして
沙羅の花ちる

さ丶ら
沙羅の花
ほの黄色(きいろ)なる


5 鴉(からす)


小田の薄(うす)ら氷(ひ)
ふみ破(わ)り
踏(ふ)み渉(わた)る

大おそどり、からす

首ふり
肩をはり
蹠(あうら)つめたげに

ついばむ
ひょうひょうとして

大おそどり からす


6 行々子(よしきり)


ふるさとの
河原の平(ひら)に
よしきりは鳴く

日ねもす鳴く

昔わが遊びし時と
變ることなし

よしきりは鳴く
日ねもす鳴く

耳いたく鳴く



7 占ふと


占ふと 云ふにあらねど
梳(くしけづ)るわが黒髪の
常(いつ)になうときわけがたく
なにがなし
心みだる丶

ためらふと云ふにあらねど
すき櫛をくしげに捨て丶
わけもなう嘆息(ためいき)すれば
あ丶まこと
わが戀のさだめにも似て
ひたすらに
心わびしも


8 ゆめ


あかつきに
見る夢の
さめはてぬ
かなしさや
野のはてに
池ありて
人をらぬ
静けさや

白々(しらじら)と
たゞひろく
ひろごれる
さびしさや

夢ごころ
うつつ心
たゞひろき
池ばかりなる



個々の曲にコメントを記載しています。作曲家のページよりご覧ください。
   Nobutoki Kiyoshi 信時潔

( 2015.03.07 藤井宏行 )