The Curlew |
ダイシャクシギ |
1 O,curlew,cry no more
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1 おおダイシャクシギよ もう鳴くな
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Or only to the waters in the West; Because your crying brings to my mind Passion-dimmed eyes and long heavy hair That was shaken out over my breast: There is enough evil in the crying of wind. |
そうではなく ただ西の海でだけ鳴け お前の鳴き声は私の心にもたらすのだ 情熱に潤んだあの瞳を 長く豊かなあの髪が 揺れ動くのを わが胸の上で 悪しきことはもう十分だ 風の叫びの中で |
2 Pale brows,still hands and dim hair
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2 蒼ざめた額 静かな手と柔らかな髪
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I had a beautiful friend And dreamed that the old despair Would end in love in the end: She looked in my heart one day And saw your image was there; She has gone weeping away. |
私にはあった ひとりの美しい友が そして夢見たのだ 昔の絶望が 終わるのではないかと この恋のうちに 最後を 彼女はある日 私の心の中を覗き見て そして見たのだ お前の姿がまだそこにあったのを 彼女は泣きながら去って行った |
3 I cried when the moon was murmuring to the birds
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3 私は叫んだ 月が小鳥たちにつぶやいていた時に
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Let peewit call and curlew cry where they will, I long for your merry and tender and pitiful words, For the roads are unending,and there is no place to my mind. The honey-pale moon lay low on the sleepy hill, And I fell asleep upon lonely Echtge of streams. No boughs have withered because of the wintry wind; The boughs have withered because I have told them my dreams. I know of the leafy paths the witches take, Who come with their crowns of pearl and their spindles of wool, And their secret smile,out of the depths of the lake; I know where a dim moon drifts,where the Danaan kind Wind and unwind their dances when the light grows cool On the island lawns,their feet where the pale foam gleams. No boughs have withered because of the wintry wind; The boughs have withered because I have told them my dreams. I know of the sleepy country,where swans fly round Coupled with golden chains,and sing as they fly. A king and a queen are wandering there,and the sound Has made them so happy and hopeless,so deaf and so blind With wisdom,they wander till all the years have gone by; I know. and the curlew and peewit on Echtge of streams. No boughs have withered because of the wintry wind; The boughs have withered because I have told them my dreams. |
タゲリは歌わせ ダイシャクシギは鳴かせろ 好きなところで 私は焦がれるのだ お前の陽気で優しく憐れみに満ちた言葉に なぜなら道は果てなく 私の心に叶った居場所はないのだから 蜜の白さの月は低く架かっている 眠たそうな丘の上 そして私は眠りに落ちた 寂しいエヒトガの流れの上で 枝は枯れたのではない 冬の風のせいで 枝は枯れたのだ 私が自分の夢を話したせいで 私は知っている 魔女たちが通る葉の茂った小道を 真珠の冠をして羊毛の紡ぎ棒を持った 秘密のほほ笑みで 湖の底から出てくるのだ 私は知っている 霞んだ月の漂う場所を どこでダナーン一族が 踊りの輪を広げ 狭めているのかを 光が冷たく輝くときに あの島の芝の上 その足元に青ざめた泡が光るところで 枝は枯れたのではない 冬の風のせいで 枝は枯れたのだ 私が自分の夢を話したせいで 私は知っている あの眠りの国も そこは白鳥たちが飛び交う 金の鎖でつがいにされて そして跳びながら歌うのだ 王様とお妃さまがそこでさまよっている そしてその響きは 彼らを幸せにも不幸せにもする 耳も目も貸さず 知恵に対して 彼らはさまよい続けるのだ 歳月が過ぎ去ってしまうまで 私は知っている ダイシャクシギやタゲリがエヒトガの流れの上にいるのを 枝は枯れたのではない 冬の風のせいで 枝は枯れたのだ 私が自分の夢を話したせいで |
4 I wander by the edge
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4 私はこの岸辺をさまよう
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Of this desolate lake Where wind cries in the sedge “Until the axle break That keeps the stars in their round, And hands hurl in the deep The banners of East and West. And the girdle of light is unbound, Your breast will not lie by the breast Of your beloved in sleep.” |
この人気のない湖の そこでは風が叫んでいる 葦の合間を 「軸が折れるまで 星たちの運航を司る軸が そして両の手が深みへと投げ落とすまで 東と西の旗を そしてこの光の帯がほどけるまで お前の胸が安らぐことはない あの胸のそばで まどろむお前の恋人の」 |
ウォーロックの代表作とされる歌曲集です。彼はそんなに暗く沈んだ歌ばかりを書いていたわけではないのですが、30代半ばの若さで自殺してしまった経歴があるためか、この救いようのない暗さの歌曲集が彼の心象風景となっていると思われるからでしょうか。浸りこむような陰鬱さがちょっと精神的に落ち込んでいるところで聴くと重苦し過ぎるような印象もありますが...
ボストリッジのようなリリックなテナー(往年のピーター・ピアーズをはじめ、イギリスには錚々たるこの系譜がありますね)のソロに、弦楽4重奏とフルート、イングリッシュホルンという厚みのある伴奏がついた4曲(実際は3曲目と4曲目の間に器楽だけの間奏曲がありますので5曲と数えることも)、詩もイエイツの初期の詩集からバラバラに集めてきたものですが、救いのない恋の悲しみ(しかも失恋とばかりは言えないようです)の何とも苦い味わいの詩が幻想的な美しさの中で1曲1曲紡ぎ出されて行きます。ダイシャクシギの名は1・3曲目にのみ出て参りますが、日本の鳥で言うと古今集あたりの雁のイメージがします。冬の夜の寂寞感と共に... イギリスの歌曲、特にリリックなテナーと弦楽4重奏というのは相性抜群ですが、それにしてもこの歌は悲しく美しい、幻想的なまでの味わいで迫ってきます。
( 2015.02.28 藤井宏行 )