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TWO POEMS FROM SUNG DYNASTY  
宋王朝の2つの詩

曲: 盛宗亮 (Bright Sheng,1955-) 中国 中国語


1 釵頭鳳 (Lu You)
1 釵頭鳳 (陸游)

紅酥手,
黄縢酒,
滿城春色宮牆柳。
東風惡,
歡情薄。
一懷愁緒,
幾年離索。
錯,錯,錯。

春如舊,
人空痩,
涙痕紅滲鮫絹透。
桃花落,
閑池閣,
山盟雖在,
錦書難托,
莫,莫,莫!

 #涙痕紅滲鮫絹透の「滲」と「絹」は
  漢字FONTがなかったので当て字です

ほのかな紅色の手
黄色の栓をした酒
満城は春の色 宮殿の壁際の柳
東風はきらい
喜びの時は儚く去り
別れのつらさをずっと抱いていた
幾年別れていたことか
違う。違う。違う。

春は昔のままだが
人は空しく痩せていく
涙の痕は紅く滲んでハンカチに染み込んでいく
桃の花は散り
閑かな池のほとりの東屋
契りの約束はまだあるけれども
もう手紙を渡すこともできない
終わりだ、終わりだ、終わりだ

2 聲聲慢 (Li Qingzhao)
2 聲聲慢 (李清照)

尋尋覓覓,
冷冷CC,
凄凄慘慘戚戚。
乍暖還寒時候,
最難將息。
三杯兩盞淡酒,
怎敵他、曉來風急。
雁過也,
正傷心,
却是舊時相識。

滿地黄花堆積,
憔悴損,
如今有誰堪摘。
守着窗兒,
獨自怎生得K。
梧桐更兼細雨,
到黄昏、點點滴滴。
這次第,
怎一個、愁字了得。

尋ね尋ね、探し探して
冷冷清々
凄凄惨惨と悲しむ
暖かくなったと思えばまた寒くなる季節
ゆっくり休むのは最も難しい
三杯兩盞の淡酒を飲んでも
どうして気が紛れよう 暁から風が激しく吹いて
雁が飛んでいき
正に傷心
でもこれは昔懐かしい光景

あたり一面菊の花が咲き乱れるのに
私は枯花のように憔悴しきっている
今誰が私を摘み取ってくれるのだろう
窓辺で空しく恋人が来るのを待つ
一人でどうやって長い夜を過ごそう
孤独な梧桐、その上雨まで降ってきた
黄昏時には點點滴滴
こんなみじめな一夜を
「愁」の一言で納得できようか。


NaxosCDのライナーに「中国のバルトーク」と銘打って紹介されている歌曲です。何が面白いといって中国語で現代作品を歌うと、歌声が楽器として実に生き生きと響くことを教えてくれます。
1990年代半ば、日本をはじめ東アジア圏でラップがはやって、日本でも「だよねー」とか「まいっか」など言葉のリズムの面白さを強調していましたが、その頃でも北京語のラップは群を抜いて秀逸であったのを思い出しました。
現代作品でよくヴォカリーズ(母音詠唱)を使うものがありますが、これを中国語の4声でやったらとにかくインパクトのある響きになるなあ、というのはちょっとした発見でした。
詩は宋の時代の有名な詩人2人の作品なのですが、不勉強な私は初めてこの時代の漢詩を読みました。学校で教わる唐の時代の漢詩と全く違うリズミカルで自由な詩の世界は実に新鮮です。「錯,錯,錯」であるとか「尋尋覓覓」という風に同じ漢字を連ねて感情の高まりを表すところが印象的ですし、これが音になると実に良いのです。詩のタイトルは両方とも詞の形式名だそうですので日本語には訳さずにそのままとしました。
1曲目の陸游の詩は、しゅうとめと折り合いが悪く別れさせられた昔の妻のことが想い切れずにいる悲しみが、2曲目の李清照は女性詩人なのだそうですが、中島みゆきのような濃い情念のたぎる実らぬ恋の歌です。
音楽は打楽器を多用し、京劇のような雰囲気を漂わせながらマーラーやバルトークの世界を再現します。中では1曲目の方が春の息吹きをリズミカルに表していて聴いていても面白いでしょうか。これはマーラーの「大地の歌」を思わせます。
2曲目は非常に重たい、現代オペラの一節のような雰囲気の曲となりました。それだけ濃い情念ということなのかも知れませんが...
作曲者のシェンは上海生まれで、現在はアメリカで活動している人だそうです。中国の伝統音楽をベースに現代作品を書いているので非常に聴きやすい作品です。
(ジュリアナ・ゴンデックのソプラノ、サミュエル・ウォン指揮 香港フィルの演奏。Naxos8.555866)

この項を書くにあたり次のサイトを参照させていただきました。
宋代の詩を充実して紹介してくださっています。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~shici/index.htm
詩詞世界 碇豊長の詩詞

( 2003.06.28 藤井宏行 )