抒情小曲集 |
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1 ほおずき
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ひとつ思いに泣けよかし 女のくちにふくまれて 男ごころのかなしさを さも忍び音に泣けよかし |
2 少女よ
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れいしの核なるくれなゐ ひとのひとなるむすめ たましひのみやなる少女よ |
3 雨の降る日 (兄のうたへるうた)
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わが弟はめんこ打つ めんこの繪の具うす青く いつもにじめる指のさき 兄も哀しくなりにけり 雨のふる日のつれづれに 客間のすみでひそひそと わが妹のひとりごと なにがかなしく羽根ぶとん 力いっぱい抱きしめる 兄も泣きたくなりにけり |
4 小曲
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びいどろつくりとなりてまし うすき女の移り香も けさの野分に吹きちりて 水はすずしく流れたり 薄荷に似たるうす涙 |
5 五月
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その五月が来ないうちに もしかして死んでしまったら ほんの気まぐれの心から 河へでも身を投げたら もう死んでしまったらどうしよう 私の好きな五月の来ないうちに |
合唱作品はかなりの数がある三善晃ですが、意外にも独唱歌曲はそれほど多く書いていなかったようでした。なかではこの1976年、壮年期に書いた「抒情小曲集《が私には一番素晴らしい音楽に思えます。萩原朔太郎の短く研ぎ澄まされた詩に(余談ですが、これらの詩、テキストをほとんどネット上で見つけることができませんでした 朔太郎の代表作の詩集に含まれない小品ばかりのようなのでそうなのでしょうか)、まるでフランス歌曲のように繊細なメロディをつけ、ため息が出るような美しい歌曲集にしています。同じフランス仕込みの繊細で美しい歌曲を書いた橋本国彦の後を継ぐ作品として、この曲を挙げることに私はためらいはありません。
三善歌曲演奏の第一人者ともいえるソプラノ、瀬山詠子さんの歌に作曲者自身のピアノによる録音(1994 Victor)でその絶妙な解釈を聴くことができます。
1930年代生まれの日本の偉大な作曲家がまたひとりこの世を去りました。ご冥福を祈りたいと思います。
( 2013.10.06 藤井宏行 )