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A Charm of Lullabies   Op.41
子守歌のおまじない

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス 英語


1 A cradle song (William Blake)
1 ゆりかごの歌 (ブレイク)

Sleep,sleep,beauty bright,
Dreaming o'er the joys of night;
Sleep,sleep,in thy sleep
Little sorrows sit and weep.

Sweet babe,in thy face
Soft desires I can trace,
Secret joys and secret smiles,
Little pretty infant wiles.

O! the cunning wiles that creep
In thy little heart asleep.
When thy little heart does wake
Then the dreadful lightnings break,

From thy cheek and from thy eye,
O'er the youthful harvests nigh.
Infant wiles and infant smiles
Heaven and Earth of peace beguiles.


お眠り お眠り 美しさの輝き
夜の喜びを夢に見ながら
お眠り お眠り お前の眠りの中
小さな悲しみたちが座って泣いている

可愛い子よ お前の顔の中に
柔らかな欲望を私は感じ取る
ひそやかな喜びを ひそやかなほほ笑みを
小さな可愛い赤子のたくらみを

おお!ずるいたくらみよ 潜んでいる
お前の小さな眠っている心の中に
お前の小さな心が目覚める時
その時には恐ろしい稲妻がほとばしる

お前の頬から お前の目から
間近な若い収穫の上に
赤子のたくらみが 赤子のほほ笑みが
天と地から安らぎを騙し取る

2 The Highland Balou (Robert Burns)
2 ハイランドの子守歌 (バーンズ)

Hee Balou,my sweet wee Donald,
Picture o' the great Clanronald!
Brawlie kens our wanton Chief
What gat my young Highland thief.

Leeze me on thy bonnie craigie!
And thou live,thou'll steal a naigie,
Travel the country thro' and thro' ,
and bring hame a Carlisle cow!

Thro' the Lawlands,o'er the Border,
Weel,my babie,may thou furder!
Herry the louns o' the laigh Countrie,
Syne to the Highlands hame to me!

お休み あたしのかわいい小さなドナルドや
偉大なクランロナルドにそっくりな!
はっきり分かるだろうさ あの気ままな族長が
この小さなハイランドの盗っ人の親父だってことは

あたしゃ大好きさ お前のかわいい首が
お前が大きくなったら、子馬を盗むんだよ
国中をすみからすみまで旅して回り
カーライルの牝牛を盗んでおいで!

ローランドを抜けて 国境を越えて
そうだよ 坊や 盗んでいいんだよ
あの低地の国の連中を悩ましておやり
それからハイランドのあたしのところへ戻っておいで!

3 Sephestia's Lullaby (Robert Greene)
3 セフェスティアの子守歌 (グリーン,ロバート)

Weep not,my wanton,smile upon my knee;
When thou art old there's grief enough for thee.

Mother's wag,pretty boy,
Father's sorrow,father's joy;
When thy father first did see
Such a boy by him and me,
He was glad,I was woe;
Fortune changèd made him so,
When he left his pretty boy,
Last his sorrow,first his joy.

Weep not,my wanton,smile upon my knee;
When thou art old there's grief enough for thee.

The wanton smiled,father wept,
Mother cried,baby leapt;
More he crow'd,more we cried,
Nature could not sorrow hide:
He must go,he must kiss
Child and mother,baby bliss,
For he left his pretty boy,
Father's sorrow,father's joy.

Weep not,my wanton,smile upon my knee,
When thou art old there 's grief enough for thee.

泣かないで あたしのやんちゃな坊や この膝の上でほほ笑んで
大きくなったら お前にもいっぱい悲しみがあるのだから

母さんのイタズラっ子 かわいい坊や
父さんの哀しみ 父さんの喜び;
おまえの父さんが初めて見た時から
そんな男の子だった 父さんと私との
父さんは喜んだ 私は悲しんだ
移り変わる運命が 父さんを変えてしまった
父さんが可愛いわが子を置いていかなくてはならなくなって
最後は悲しみとなったの 最初のの喜びは

泣かないで あたしのやんちゃな坊や この膝の上でほほ笑んで
大きくなったら お前にもいっぱい悲しみがあるのだから

イタズラっ子はほほ笑み 父さんは泣いた
母さんは声を上げて泣き あかちゃんは跳びはねた
彼が歓声をあげるほど 私たちは泣いたの
自然は悲しみを隠せない
父さんは行かなくちゃ 父さんはキスしなくちゃ
子供と母さんに 赤ちゃんに祝福を
だって父さんはかわいい息子を置いていかなければならないの
父さんの哀しみ 父さんの喜びを

泣かないで あたしのやんちゃな坊や この膝の上でほほ笑んで
大きくなったら お前にもいっぱい悲しみがあるのだから

4 A charm (Thomas Randolph)
4 おまじない (ランドルフ)

Quiet!
Sleep! or I will make
Erinnys whip thee with a snake,
And cruel Rhadamanthus take
Thy body to the boiling lake,
Where fire and brimstones never slake;
Thy heart shall burn,thy head shall ache,
And ev'ry joint about thee quake;
And therefor dare not yet to wake!
Quiet,sleep!
Quiet,sleep!
Quiet!

Quiet!
Sleep! or thou shalt see
The horrid hags of Tartary,
Whose tresses ugly serpants be,
And Cerberus shall bark at thee,
And all the Furies that are three
The worst is called Tisiphone,
Shall lash thee to eternity;
And therefor sleep thou peacefully
Quiet,sleep!
Quiet,sleep!
Quiet!

静かにして!
眠りなさい!さもなきゃあたしゃ
エリニュスにお前をヘビのムチでぶたせるよ
それからざんこくなラダマンテュスに放り込ませるよ
お前の体を 煮えたぎる池の中に
火とイオウとが決して消えないから
お前の心臓は燃えるし お前の頭は痛いし
関節はみな ぶるぶるふるえるんだよ
だから起きてようとしてちゃだめなの!
静かにして!眠りなさい!
静かにして!眠りなさい!
静かにして!

静かにして!
眠りなさい!でないと見ることになるよ
タタールのおそろしい魔女を
その髪はみにくいヘビなんだよ
それからケルベロスがお前に吠えかかるし
そこにいる復讐の女神は全部で三人
その中で一番悪いのはティシフォネと呼ばれてて
お前を永遠にむちでぶつんだよ
だからお前もおとなしく眠りなさい
静かにして!眠りなさい!
静かにして!眠りなさい!
静かにして!

5 The Nurse's Song (John Phillip)
5 乳母の歌 (フィリップ,ジョン)

Lullaby baby,
Lullabylaby baby,
Thy nurse will tend thee as duly as may be.
Lullaby baby!

Be still,my sweett sweeting,no longer do cry;
Sing lullaby baby, lullaby baby.
Let dolours be fleeting,I fancy thee,I ...
To rock and to lull thee I will not delay me.

Lullaby baby,
Lullabylabylaby baby,
Thy nurse will tend thee as duly as may be
Lullabylabylaby baby

The gods be thy shield and comfort in need!
The gods be thy shield and comfort in need!
Sing Lullaby baby,
Lullabylaby baby

They give thee good fortune and well for to speed,
And this to desire ... I will not delay me.
This to desire ... I will not delay me.

Lullaby lullabylaby baby,
Thy nurse will tend thee as duly as may be.
Lullabylabylabylaby baby.

ねんねこよ あかちゃん
ねんねこねこよ あかちゃん
あなたの乳母がしっかりお世話してあげますよ
ねんねこよ あかちゃん

静かにね かわいいかわいい子 もう泣かないの
歌いましょ ねんねこよ あかちゃん ねんねこよ あかちゃん
つらい悲しみは逃げて行く 私はあなたを愛してます
揺すって 揺らしてあげましょう 休むことなく

ねんねこよ あかちゃん
ねんねこねこねこよ あかちゃん
あなたの乳母がしっかりお世話してあげますよ
ねんねこねこねこよ あかちゃん

神々さまがあなたをお守りして 慰めて下さいますよ
神々さまがあなたをお守りして 慰めて下さいますよ
歌いましょ ねんねこよ あかちゃん
ねんねこねこねこよ あかちゃん

あなたに幸運を下さいますように みんなうまく行きますように
私もお願いしましょう 休むことなく
そのことをお願いしましょう 休むことなく

ねんねこねこねこよ あかちゃん
あなたの乳母がしっかりお世話してあげますよ
ねんねこねこねこよ あかちゃん


子守歌のいろいろな様相を、イギリスの昔の詩人たちの素敵な詩で描きだしたブリテン珠玉の歌曲集です。ひたすら子供への愛情を語りかけるもの、大人の都合をぶつぶつとつぶやくものと様々ですが、なかなかに興味深いものばかりです。第4曲「おまじない《などは我が家の子供たちが小さかった時のことを思いだして思わずほほえんでしまいました。
音楽的にはブリテンにしては軽妙洒脱な感じ、プーランクの音楽を思わせます。3曲目や4曲目が特にそうで、リズミカルに流れる音楽からはユーモアすら感じられます。
第1曲はWilliam Blake (1757-1827) の詩、彼の「無垢と経験の歌《からの詩かと思ったのですが、それとは別のもののようです。ブレイクらしいちょっと皮肉な視線も混じった詩にブリテンは淡々と流れるメロディをつけました。伴奏にはモダンな響きが時々織り込まれ、まるでバリ島のガムラン音楽のような響きを紡ぎ出します。
第2曲はRobert Burns (1759-1796)、歌詞はスコットランド語でしょうか。スコットランドとイングランドとの因縁の争いがこのような子守歌を通じてまた子供たちに受け継がれて行ったのかと思うと複雑な感ではあります。この詩をドイツ語訳したものが、シューマンの歌曲集「ミルテ《の中の「ハイランドの子守歌《として取り上げられていますので聴き比べてはいかがでしょうか。ブリテンのものは堂々と晴れやかで、まさに民族の誇りを高らかに歌い上げるといったことろでしょうか。
第3曲はRobert Greene (1558-1592)の詩、何かの物語の一部でしょうか。この詩だけとっても意味が良く分からないところがありますが、母と子を残して遠くへ単身赴任してしまったお父さんのことを母が語りかけているのだということは分かります。ならば悲しみに満ちたメロディを期待するところですが、ブリテンはここに実に軽やかで快速のメロディをつけました(この部分、ほんとにプーランクの歌曲そっくりです)。
第4曲はThomas Randolph (1605-1635)の詩、寝ないとお化けに食べられちゃうよと小さい子を脅すのは古今東西共通なのですね。
第5曲はJohn Phillip(16世紀)、この中では一番スタンダードな子守歌でしょうか。メロディもちょっと憂いに満ちた穏やかなもので静かにこの歌曲集を閉じます。
1947年にメゾ・ソプラノ歌手のナンシー・エヴァンスのために書かれたこの歌曲集、しっとりとしたメゾ・ソプラノによって歌われると実に暖かくて素敵です。メゾではないですが、このエヴァンスに学んだこともあるという波多野睦美さんの歌った録音が国内では一番入手しやすいですし、素晴らしく味わい深い演奏です。この歌曲集 Charmを何と訳すかで色々な邦訳があるようですが、ここではこの波多野さんの録音に従っておきました。

( 2013.05.05 藤井宏行 )