TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Frauenliebe und Leben   Op.42
女の愛と生涯

詩: シャミッソー (Adelbert von Chamisso,1781-1838) ドイツ

曲: シューマン,ロベルト (Robert Alexander Schumann,1810-1856) ドイツ ドイツ語


1 Seit ich ihn gesehen
1 あの人に出会ってから

Seit ich ihn gesehen,
Glaub ich blind zu sein?
Wo ich hin nur blicke,
Seh ich ihn allein?
Wie im wachen Traume
Schwebt sein Bild mir vor,
Taucht aus tiefstem Dunkel,
Heller nur empor.

Sonst ist lichtund farblos
Alles um mich her,
Nach der Schwestern Spiele
Nicht begehr ich mehr,
Möchte lieber weinen,
Still im Kämmerlein?
Seit ich ihn gesehen,
Glaub ich blind zu sein.

あの人に出会ってから
あたしは何も見えなくなったみたい
どこを見ても
あの人だけが見えてしまうの
まるで昼間に夢を見てるみたいに
あの人の姿が目の前にちらつく
それはとっても深い暗闇の中から現れてくるの
明るくくっきりと

その上 光も色もなくなってしまった
あたしの周りではみんな
妹たちと遊ぶことなんかも
今はもう全然したくないの 
それよりあたし泣いていたい
静かに小さな部屋の中で
あの人に出会ってから
あたしは何も見えなくなったみたい

2 Er,der Herrlichste von allen
2 彼って、誰よりも一番ステキだわ

Er,der Herrlichste von allen,
Wie so milde,wie so gut!
Holde Lippen,klares Auge,
Heller Sinn und fester Mut.

So wie dort in blauer Tiefe,
Hell und herrlich,jener Stern,
Also er an meinem Himmel,
Hell und herrlich,hehr und fern.

Wandle,wandle deine Bahnen,
Nur betrachten deinen Schein,
Nur in Demut ihn betrachten,
Selig nur und traurig sein!

Höre nicht mein stilles Beten,
Deinem Glücke nur geweiht?
Darfst mich niedre Magd nicht kennen,
Hoher Stern der Herrlichkeit!

Nur die Würdigste von allen
Darf beglücken deine Wahl,
Und ich will die Hohe segnen,
Segnen viele tausendmal.

Will mich freuen dann und weinen,
Selig,selig bin ich dann?
Sollte mir das Herz auch brechen,
Brich,o Herz,was liegt daran?

彼って、誰よりも一番ステキだわ
なんて優しくて、なんていい人なの!
優しそうな口元、澄んだ瞳
明るい性格とブレない勇気

あの空の、青い深みの中で
明るく輝いているあの星のように
彼もまた あたしの空の中で
明るく輝かしく、でもステキすぎて手が届かない

行ってね、行ってね、あなたの道を
あたしはただあなたの輝きを見つめるわ
ただつつましく その輝きを見つめるわ
幸せ一杯に、そして悲しさで一杯に!

あたしのひそやかな祈りを聞かないで
あなたの幸運だけに捧げたこの祈りを
あたしのようなつまらない女のことは知らないでしょ
あなたのような輝く遠くの星は!

誰よりも素晴らしい女の人だけが
あなたに選ばれる幸せを受けられるのよね
その時にはあたしは祝福をしましょう
祝福を 何千回でも

そしてあたしは喜び、そして泣くの
幸せなの、そう幸せなんだから
もしあたしの心が張り裂けるのなら
張り裂けるがいいわ、おお心よ、それくらい何よ!

3 Ich kann's nicht fassen,nicht glauben
3 わかんない、信じらんない

Ich kann's nicht fassen,nicht glauben,
Es hat ein Traum mich berückt?
Wie hätt er doch unter allen
Mich Arme erhöht und beglückt?

Mir war's,er habe gesprochen:
“Ich bin auf ewig dein,”
Mir war's ich träume noch immer,
Es kann ja nimmer so sein.

O laß im Traume mich sterben,
Gewieget an seiner Brust,
Den seligsten Tod mich schlürfen
In Tränen unendlicher Lust.

わかんない、信じらんない
夢があたしを惑わしているのかしら
どうして彼がすべての女性の中から
あたしみたいなつまんない女の子の願いを聞いて幸せにしてくれたの?

あたしになのよね、彼がこういったのは:
「ぼくは永遠にあなたのもの」って
あたしなのよね-今夢を見ているのは
こんなこと絶対にあり得ないんだもの

ああ、夢の中で死なせて
あの人の胸の中で揺られて
この幸せな死を味わいたいの
限りない喜びの涙を流しながら

4 Du Ring an meinem Finger
4 あたしの指にはめられた指輪よ

Du Ring an meinem Finger,
Mein goldenes Ringelein,
Ich drücke dich fromm an die Lippen,
Dich fromm an das Herze mein.

Ich hatt ihn ausgeträumet,
Der Kindheit friedlich schönen Traum,
Ich fand allein mich,verloren
Im öden,unendlichen Raum.

Du Ring an meinem Finger
Da hast du mich erst belehrt,
Hast meinem Blick erschlossen
Des Lebens unendlichen,tiefen Wert.

Ich will ihm dienen,ihm leben,
Ihm angehören ganz,
Hin selber mich geben und finden
Verklärt mich in seinem Glanz.

Du Ring an meinem Finger,
Mein goldenes Ringelein,
Ich drücke dich fromm an die Lippen
Dich fromm an das Herze mein.

あたしの指にはめられた指輪よ
あたしの金色の小さな指輪
お前をそっとくちびるにあててみるの
この胸にそっとあててみるの

夢からすっかり覚めてしまったわ
子供の頃の平和で美しい夢から
そしたらあたしはたった一人で捨てられていた
荒れ果てた、限りなく寂しいところに

あたしの指にはめられた指輪よ
そこでお前はあたしに教えてくれた
あたしの目に見せてくれたのよ
この人生の限りない、深い意味を

あたしはあの人にお仕えしましょう、あの人のために生きましょう
あたしのすべてをあの人に捧げましょう
あたしを捧げて そして見るの
あの人の輝きのもとであたしも光り輝くのを

あたしの指にはめられた指輪よ
あたしの金色の小さな指輪
お前をそっとくちびるにあててみるの
この胸にそっとあててみるの

5 Helft mir,ihr Schwestern
5 あたしを手伝って 妹たち

Helft mir,ihr Schwestern,
Freundlich mich schmücken,
Dient der Glücklichen heute mir,
Windet geschäftig
Mir um die Stirne
Noch der blühenden Myrte Zier.

Als ich befriedigt,
Freudigen Herzens,
Sonst dem Geliebten im Arme lag,
Immer noch rief er,
Sehnsucht im Herzen,
Ungeduldig den heutigen Tag.

Helft mir,ihr Schwestern,
Helft mir verscheuchen
Eine törichte Bangigkeit,
Daß ich mit klarem
Aug ihn empfange,
Ihn,die Quelle der Freudigkeit.

Bist,mein Geliebter,
Du mir erschienen,
Giebst du mir,Sonne,deinen Schein?
Laß mich in Andacht,
Laß mich in Demut,
Laß mich verneigen dem Herren mein.

Streuet ihm,Schwestern,
Streuet ihm Blumen,
Bringet ihm knospende Rosen dar,
Aber euch,Schwestern,
Grüß ich mit Wehmut
Freudig scheidend aus eurer Schar.

あたしを手伝って 妹たち
あたしが着飾るのを仲良くね
今日だけはこの幸せ者のあたしの世話をしてよ
しっかりと結んでね
私のこの額のまわりに
ミルテの花飾りを

あたしが満ち足りて
喜び一杯の心で
愛する人の腕の中に抱かれるとき
いつも彼は言っていた
心は憧れにみちて
今日この日が待ちきれないと

手伝ってよ あたしの妹たち
あたしが消し去ってしまうのを
この馬鹿げた不安な気持ちを
あたしが迷いのない
瞳であの人を迎えられるように
あたしの喜びの源であるあの人を

あたしの愛する人
あなたはあたしの前に現れたら
その輝きをあたしにくれるのかしら、太陽さん?
あたしを敬虔な気持ちにさせてください
あたしを謙虚な気持ちにさせてください
そうして我が主の前で頭を垂れさせてください

撒いてよ彼に 妹たちよ
撒いてよ花を彼に
バラのつぼみを彼に持っていってね
でもあなたたち、妹には
ちょっとさみしい挨拶をしなくちゃ
幸せだけど あなたたちとはお別れなのだから

6 Süßer Freund,du blickest
6 愛しい人、あなたは見てるのね

Süßer Freund,du blickest
Mich verwundert an,
Kannst es nicht begreifen,
Wie ich weinen kann?
Laß der feuchten Perlen
Ungewohnte Zier
Freudig hell erzittern
In dem Auge mir.

Wie so bang mein Busen,
Wie so wonnevoll!
Wüßt ich nur mit Worten,
Wie ich's sagen soll?
Komm und birg dein Antlitz
Hier an meiner Brust,
Will in's Ohr dir flüstern
Alle meine Lust.

Weißt du nun die Tränen,
Die ich weinen kann?
Sollst du nicht sie sehen,
Du geliebter Mann?
Bleib an meinem Herzen,
Fühle dessen Schlag,
Daß ich fest und fester
Nur dich drücken mag.

Hier an meinem Bette
Hat die Wiege Raum,
Wo sie still verberge
Meinen holden Traum?
Kommen wird der Morgen,
Wo der Traum erwacht,
Und daraus dein Bildnis
Mir entgegen lacht.

愛しい人、あなたは見てるのね
私のことを不思議そうに
きっと分からないんでしょう
私がなぜ泣いているのかが
この濡れた真珠の涙
見慣れない飾りを
楽しげに明るく震えるままにしておいて
私のこのまつげのところで

なんて不安な私の胸
でもなんて幸せ一杯なの!
どうやって言葉にすればいいのか
わかっていればいいのだけれど
来て、あなたの頭を
私の胸に埋めて
あなたの耳にささやくわ
私の喜びのすべてを

もうこれで涙のわけは分かったでしょう
私が泣いているわけが?
でも涙はもう見ないでね
愛するあなた
私の胸のところにじっとして
この鼓動を感じてちょうだい
私は固く固く
あなただけを抱きしめていたいの

ほらここの私のベッドのそばに
揺りかごを置く場所があるわ
ここに静かに隠して置きましょう
私の素敵な夢を
やがて朝が来て
夢から覚めたときには
あなたにそっくりの顔がここから
私に微笑みかけてくれるのよ

7 An meinem Herzen,an meiner Brust
7 私の心には、私の胸には

An meinem Herzen,an meiner Brust,
Du meine Wonne,du meine Lust!
Das Glück ist die Liebe,die Lieb ist das Glück,
Ich hab's gesagt und nehm's nicht zurück.

Hab überglücklich mich geschätzt
Bin überglücklich aber jetzt.
Nur die da säugt,nur die da liebt
Das Kind,dem sie die Nahrung giebt?

Nur eine Mutter weiß allein
Was lieben heißt und glücklich sein.
O,wie bedaur' ich doch den Mann,
Der Mutterglück nicht fühlen kann!

Du lieber,lieber Engel,du
Du schauest mich an und lächelst dazu!
An meinem Herzen,an meiner Brust,
Du meine Wonne,du meine Lust!

私の心には、私の胸には
私の幸せ、私の喜びであるお前がいる!
幸せは愛すること。愛することこそが幸せ
いつかそう言ったこと 今もそう思ってる

私はこれまでもとても幸せだったけど
でも今もとっても幸せ
こうしてお乳をあげるだけで、いつくしむだけで
この子に、こうして栄養をあげるだけで

ただ母親だけが分かるのね
愛とは何で、幸せが何なのかを
ああ、男の人ってなんてかわいそう
母になる幸せを感じることができないなんて!

おまえは私を見て笑っているわね
いとしい、いとしい私の天使ちゃん!
私の心に、私の胸には
私の幸せ、私の喜びであるお前がいる!

8 Nun hast du mir den ersten Schmerz getan
8 今あなたは私に初めての痛みを与えました

Nun hast du mir den ersten Schmerz getan,
Der aber traf.
Du schläfst,du harter,unbarmherz'ger Mann,
Den Todesschlaf.

Es blicket die Verlaßne vor sich hin,
Die Welt ist leer.
Geliebet hab ich und gelebt,ich bin
Nicht lebend mehr.

Ich zieh mich in mein Innres still zurück,
Der Schleier fällt,
Da hab ich dich und mein verlornes Glück,
Du meine Welt!

今あなたは私に初めての痛みを与えました
私を貫く痛みを
あなたは眠っている、冷酷な、情け知らずの人は
死の眠りを

残されたこの私はじっと前を見つめている
この世は空っぽ
私は愛し、生きてきた、私は
もうこれ以上生きてはいけない

私は自分の心の中に静かにこもりましょう
ヴェールを下ろして
そこにこそあなたが、そして私の失われた幸せがあるのだから
あなたが私の世界だったの!


フランス出身のドイツの作家&詩人のアデルベルト・フォン・シャミッソー(1781-1838)が1830年に書いた詩集「女の愛と生涯」、彼自身実際にもう40歳になろうかという1820年に歳が二十も違う若い女性と結婚したのだそうで、そんなあたりがこの作詩のインスピレーションになったのでしょうか。結婚10年後に書いたというのも意味深長です。シューマン自身も、結婚することになったクララとの年齢差は9歳でしたからこれらの詩に心響くものがあったのでしょうか。1840年、彼の歌曲が量産された歌の年にはシャミッソーの詩による歌曲がこれを含めけっこう集中しています。また同じ詩集にカール・レーヴェがメロディをつけたものがあり、これに触発されたというところもあるのかも知れません。

面白いのはこの歌曲集、愛着を表明している方というのが中年以上の男にほぼ限られ、女性は興味ない、あるいはあからさまな嫌悪感を表明されている方が多いという現象です。中にはアメリカのフェミニストの音楽学者の人など、詳細な詩と曲のアナリーゼの末、「これは現代に聴くべき作品ではない」とまで言い切っていたりしているものまでがあったりもします。例えはよくないですが、女性の気持ちをあまり考えずに、男の側のファンタジーが肥大してしまった結果の創作物、そうアダルトビデオとかと構造は同じなのでしょう。
その意味ではこの詩と音楽にファンタジー(エロス?)を感じ取る人にとってはとても愛着のあるものとなるし、逆にここで強調されているファンタジーにものすごく抵抗感のある人もいるというのは肯けることです。同じ詩にメロディをつけておりながらあまりエロさを感じさせないレーヴェの作品と聴き比べると一層そんなことを感じます。

訳詩にチャレンジしましての、私が綴りましたひとつひとつの詩の解釈の駄文はレーヴェの曲を紹介した項をご覧頂くとしまして、ここではシューマンが詩に手をいれた部分を中心にいくつかコメントします。ただ細かい語句の入れ替えは山のようにありますのでそれらは割愛させていただきます。

一番の違いはシャミッソーの原詩では最後に主人公が老婆となり、孫娘の婚礼を前にして自分の人生をしみじみと語るシーンがあるのですが、シューマンはこれをカットし、夫の死を歌ったあとで、第一曲の初恋のメロディを伴奏で回想して終わらせていることです。レーヴェはこの最後のシーンにも曲を付けていますが、私はこれがあった方がこの「女性の生涯」という点では筋が通っているように思えたのですが、男のファンタジーということからすると、自分の死んだあとのことは知ったこっちゃないといったところでしょうか。この最後の詩のカットはかなり重要な意味を孕んでいるように思われます。
あと大きなカットとしては、第6曲、実は第3節に「母に相談したので懐妊がわかったの」というくだりがあるのですが(原詩と訳はやはりレーヴェの項をご覧ください)、これも見ようによっては生々しいともいえなくないからでしょうか。シューマンはばっさりとカットしています。
あとは特に大きな改変はないようですが、くしくもこの曲を書いた16年後、この最終曲と同じようにシューマン自身がクララを残して先立つことになるとは。

( 2010.12.11 藤井宏行 )