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Three Songs   Op.10
3つの歌

詩: ジョイス (James Augustine Aloysius Joyce,1882-1941) アイルランド

曲: バーバー (Samuel Barber,1910-1981) アメリカ 英語


1 Rain has fallen
1 雨は降り続く

Rain has fallen all the day.
O come among the laden trees:
The leaves lie thick upon the way
Of mem'ries.

Staying a little by the way
Of mem'ries shall we depart.
Come,my beloved,where I may
Speak to your heart.

雨は一日中降り続く
おおおいでよ うなだれた木々の間に
木の葉は道の上に散っている
思い出の道の

しばらくその道の上にとどまって
それから出かけよう
おいでよ、ぼくの愛する人、ぼくが
君の心に話しかけられるところへ

2 Sleep now
2 眠れよ今

Sleep now,O sleep now,
O you unquiet heart!
A voice crying “Sleep now”
Is heard in my heart.

The voice of the winter
Is heard at the door.
O sleep,for the winter
Is crying “Sleep no more.”

My kiss will give peace now
And quiet to your heart -
Sleep on in peace now,
O you unquiet heart!

眠れよ今、おお眠れよ今
 おおお前 静まらない心よ!
叫ぶ声で 「眠れよ今《と
 聞こえるのだ 私の心の中で

冬の声が
 ドアのところで聞こえる
おお眠れよ、だって冬が
 叫んでいるのだから「もう眠るな《と

私のくちづけは今こそ平和を与えるだろう
 それと静けさを君の心に
安らかに眠れよ今
 おおお前 静まらない心よ

3 I hear an army
3 私は聞く 軍隊が

I hear an army charging upon the land,
And the thunder of horses plunging,foam about their knees:
Arrogant,in black armour,behind them stand,
Disdaining the reins,with flutt'ring whips,the charioteers.

They cry unto the night their battlename:
I moan in sleep when I hear afar their whirling laughter.
They cleave the gloom of dreams,a blinding flame,
Clanging,clanging upon the heart as upon an anvil.

They come shaking in triumph their long,green hair:
They come out of the sea and run shouting by the shore.
My heart,have you no wisdom thus to despair?
My love,my love,why have you left me alone?

私は聞く 軍隊がその土地に攻め込むのを
そして攻め込む馬たちのとどろきを 馬たちの膝の泡立ちを
傲然と、黒い甲冑を着て、馬たちの後ろに立つのは
手綱など無視して、鞭をふるっている、戦車乗りたち

彼らは夜闇の中で吊乗りをあげる
私は眠りの中でうめく 遠くで彼らの渦巻く笑いを聞きながら
彼らは夢の暗闇を引き裂き、目のくらむような炎は
叩くのだ 叩くのだ 私の心を 鉄床のように

彼らは勝ち誇り その長い緑の髪を振りながらやってくる
彼らは海より現れ出で 叫びながら海岸を走る
わが心よ、お前には絶望するより他に知恵はないのか?
わが恋人よ、わが恋人よ、なぜにお前は私をひとり残したのだ?


20世紀アイルランドの巨人作家&詩人ジェイムス・ジョイスの初期の詩集「室内楽 Chamber Music《(1907)は、作曲家のインスピレーションを掻き立てる豊かなイメージの奔流があるのでしょうか。意外なほど多くの人がメロディをつけています。アメリカのロマン派とも言えるサミュエル・バーバーもそのひとりで、この歌曲集はじめいくつかの詩にメロディをつけています。詩集は愛の詩ですが、上思議なイメージ描写と言葉の使い方で、なかなか一筋縄では翻訳できない難物そろいです。従って訳詞の出来栄えはお粗末この上ありませんがどうかご容赦を。
ここにバーバーが取り上げた3篇は40篇ほどある原詩集の中の32・34.36番目と後半に固まっています。

( 2010.08.29 藤井宏行 )