2 Lieder nach Gedichten von Rainer Maria Rilke Op.8 |
リルケの詩による2つの歌曲 |
1 Du,der ichs nicht sage
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1 お前は、ぼくが教えたわけでもないのに
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weinend liege, deren Wesen mich müde macht wie eine Wiege. Du,die mir nicht sagt,wenn sie wacht Meinetwillen: wie,wenn wir diese Pracht ohne zu stillen in uns ertrügen? Sieh dir die Liebenden an, wenn erst das Bekennen begann, wie bald sie lügen. |
ぼくが涙にくれて寝ているのだと言うことを、 そこにいるだけでぼくをまどろませてくれる まるで揺りかごのように お前も、ぼくには決して言わない、ずっと起きていることがあっても ぼくのためにずっと: それじゃ何だって、ぼくたちはこの素晴らしいことを 満たされることもなく 自らの中に秘めていようというんだろう? 愛し合ってる連中のことを見てご覧よ まずは告白さえ済ませてしまえば、 なんてあっさりと嘘をつくようになることだか |
2 Du machst mich allein
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2 お前はぼくを独りぼっちにする
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Eine Weile bist du's,dann wieder ist es das Rauschen, oder es ist ein Duft ohne Rest. Ach,in den Armen hab ich sie alle verloren, du nur,du wirst immer wieder geboren: weil ich niemals dich anhielt,halt ich dich fest. |
ほんのしばらくの間それはお前なのだが、それからまた風のそよぎとなり あるいはまた はかなく消える香りとなる ああ、この腕の中に抱いていたはずのすべては失われた お前だけだ、お前はいつも再び生まれ変わる それはお前を決して捕まえていようとしないから、結局捕まえていることになるのだろう |
リルケの難解な小説「マルテの手記」の終わり近くで現れてくる詩に付けられた作品。青年マルテの早世した母の末の妹アベローネが、パーティの参加者の前で歌うドイツ語の歌として描写されています。歌の詞という設定なのですが、この詞に曲をつけたのはEmily Ezustのページを見る限りほとんどいないようです。小説にあるように「今度の歌はつよい力がこもっていた。あふれるものがあった。しかも、不思議に重くはなかった。一気におしだしたような、切れめのない、無縫な、めずらしい唄いぶりだった。作家はわからぬがドイツ語の歌詞であった。彼女は何か必然なもののように、それをごく単純に歌った(大山定一訳)」とはとてもいえない複雑な歌ではありますが、この詞にウェーベルンが曲をつけてくれたのは大変うれしいことと言えましょうか。第1曲目では歌詞の「愛し合ってる連中のことを」の前に「短い間をおいて、歌はためらいがちにつづけられた(同・大山訳)」とありますが、ウェーベルンの曲ではそれほどはっきりした間はありませんでした。また第2曲はしばしの静寂のあと、再び彼女が歌った曲です。
ということでこれはもちろん独唱歌曲なのですが、ここでウェーベルンは初めて伴奏に器楽アンサンブルを用います、クラリネット(バス・クラリネット)・ホルン・トランペット・チェレスタ・ハープ・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの8楽器。めくるめく色々な音が浮かんでは消えまた浮かんでは消えと、たいへん精緻な音楽が出来上がりました。
詩は難解でうまく訳せなかったところもありそうですが、なかなかに寂寞とした、寂しい恋の歌のようです。一緒にはいるのだけれど孤独感に打ちひしがれているという...
感情の襞が感じられない無調の響きが、この孤独感をうまく表しているように思います。あまり小説の設定のように、パーティの席で歌われることはイメージできないのではありますが。
( 2010.05.05 藤井宏行 )