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Combat del somni  
夢のたたかい

詩: ジャネス (Josep Janés,1913-1959) スペイン

曲: モンポウ (Federico Mompou,1893-1987) スペイン カタロニア語


1 Jo et pressentia com la mar
1 お前の上には ただ花だけ

Damunt de tu només les flors.
Eren com una ofrena blanca:
la llum que daven al teu cos
mai més seria de la branca.

Tota una vida de perfum
amb el seu bes t’era donada.
Tu resplendies de la llum
per l’esguard clos atresorada.

Si hagués pogut ésser sospir
de flor! Donar-me com un llir
a tu,perquè la meva vida
s’anés marcint sobre el teu pit.

I no saber mai més la nit
que al teu costat fóra esvaïda.

お前の上には ただ花だけ
それはまるで白い捧げ物のよう
お前の体のまわりに射しかける光は
もう枝からのものではなかった

その香る命のすべてを
花たちはお前にくちづけて贈った
お前は光輝いている
宝物のように閉じられた瞳に

もし私がため息になれたなら
この花たちの! ユリのようにこの身を捧げただろうに
お前に、そうすれば私の命も
絶え入るのだろう お前の胸の上で

私はもはや夜を知らない
お前の傍らでは 夜は消え去ってしまうのだから

2 Aquesta nit un mateix vent
2 今宵 同じ風が

Aquesta nit un mateix vent
i una mateixa vela encesa
devien dû el teu pensament
i el meu per mars on la tendresa

es torna música i cristall.
El bes se’ns feia transparència,
si tu eres l’aigua,jo el mirall,
com si abracéssim una absència.

El nostre cel fóra,potser,
un somni etern aixís de besos
fets melodia i un no ser
de cossos junts i d’ulls encesos

amb flames blanques i un sospir
d’acariciar sedes de llir.

今宵 同じ風が
そして同じ燃え立つ帆が
お前の想いを運ぶにちがいない
そして私の想いをも 優しさに満ちた海へと
 
その優しさは音楽や水晶となり
私たちのくちづけは透明になる
お前が水であったなら 私は鏡になろう
まるで空虚さを抱いているかのように

私たちの空は おそらくは
くちづけの永遠の夢となるだろう
メロディを生み出すくちづけの 
寄り添い合う体と燃え立つ瞳の

白い炎と ため息なのか
絹のユリを愛撫しつつ?

3 Jo et pressentia com la mar
3 私にはお前は海のように思える

Jo et pressentia com la mar
i com el vent,immensa,lliure,
alta damunt de tot atzar
i tot destí.
            I en el meu viure

com el respir.
            I ara que et tinc
veig com el somni et limitava.
Tu no ets un nom ni un gest.
            No vinc
a tu com a l’imatge blava

d’un somni humà.
            Tu no ets la mar
que és presonera dins de platges,
tu no ets el vent pres en l’espai.
Tu no tens límits; no hi ha,encar,
mots per a dir-te,ni paisatges
per sê el teu món,ni seran mai.

私にはお前は海のように思える
そして風のように、巨大で、自由で
気高いのだ あらゆる偶然より
そしてあらゆる運命より
        そして私の人生の中の

吐息のようなもの
        今私はお前を得て
分かったのだ どれほど夢がお前を限られたものにしていたかが
お前はひとつの吊でもなく 印でもない
        私は行かない
お前のもとに 青い幻影としては

人間の夢の幻影として
        お前は海ではない
浜辺の間に閉じ込められた
お前は風ではない 空に捕らえられた
お前には限りがない そこにはまだないのだ
お前を言い表す言葉は 決してこの風景が
お前の世界ではないし これからも決してならないだろう

4 Fes-me la vida transparent
4 この人生を透明にしてくれ

Fes-me la vida transparent,
com els teus ulls;
torna ben pura la mà meva,
i al pensament
duu-m’hi la pau.
Altra aventura no vull,
sinó la de seguir
l’estela blanca que neixia
dels teus camins.
I no llanguir
per ser mirall d’uns ulls.
Voldria ser com un riu oblidadís
que es lliura al mar,
les aigües pures de tota imatge
amb un anhel de blau.
I ser llavors feliç
de viure lluny d’amors obscures
amb l’esperança del teu cel.

私の命を透明にしておくれ
あなたの瞳のように
とても清らかにしておくれ 私の手を
そしてこの思いに
もたらしてくれ 安息を
私はもう冒険をしたくはない
ついて行く以外の
白い足跡に 生まれて来る
あなたの行く先に
そして苦しみたくないのだ
その瞳の鏡に映されて
私はなりたい 忘却の川のように
海へと流れ去って行く
どんな鏡像の澄んだ水も
青の憧れと共に
私は幸せでいたい
遠くに生きることで この暗い愛から
あなたの空の希望と共に
5 Ara no sé si et veig,encar
5 私には分からない まだあなたを見られるのかどうか

Ara no sé si et veig,encar.
Els ulls et miren,i voldria
que aixó fos veure’t. Si sabia
que et veig i et sé,com fóra avar

de poder dir que cap mirall
del món,ni l’aigua més serena
no et saben dir; que sols alena
un pit que estimi el que el cristall

no veu ni diu! Si fos així!
Que tu només fossis en mi!
Lluny dels meus ulls,tan limitada,

tan reduïda a gest,a esguard,
a imatge,a veu,que jo fos part
de tu,vivent per ma mirada.

私には分からない まだあなたを見られるのかどうか
この目はあなたを見ている 私はしたいのだ
こんな風に見ていることが もしも知ることができるならば
あなたを見てあなたを知り 熱烈になれると

言えるようになりたい どんな鏡も
この世界で そしてどんな水鏡も
あなたに告げることはできぬのだと 息づく魂は
結晶を愛でて生きているのだから

見ることも語ることもできぬ!もしできたなら!
あなたが私のうちにあることが!
私の視線から離れ あまりに小さいのだ

動きはあまりに小さくなった その眼差しも
姿も 声も もし私が一部となれたなら
あなたの一部と わがまなざしのもとに生きる

死後50年経っていない作曲家の作品は著作権が心配なので歌詞を書いていませんが、多分この難解な詩は私は巧く訳せないと思います。夢でみた情景を漠然と綴ったシュールな世界、それにまたモンポウがドビュッシーのような精緻きわまりない音楽を付けているので、非常に魅力的な作品になっています。「夢の戦い《は3曲からなり、これはその第3曲目ですが、3曲の中で一番スペイン情緒も出ており、「情熱的なドビュッシー《という感じが一番して、あの独特なドビュッシー歌曲の世界にはまり込んだ人には次の麻薬として打ってつけではないかと思います。
モンポウの歌曲にはフランス語の詩に付けたものがたくさんあり、フランス歌曲からの横滑りが容易だと思いますが、残念ながら私の手持ちの歌曲集のCDはDiscoverから出ているもの1枚のみで、歌詞がこれには載っていないので、私も何が歌われているのかよく分かりません。幸い「夢の戦い《はモンポウでは一番有吊な歌曲らしく何種類かリリースされています。私が聴いたのは他には伴奏を管弦楽が務めたロス・アンヘレス盤(EMI)で、オケの色彩感と歌の透明感が溶け合って独特の味わいです。

(1998.07.27)

時の流れが経つのは速いもので、この「夢の戦い《の詩を書いた詩人ジョセプ・ジャネス(1913-1959) の著作権が昨年切れておりました。スペインの方言のカタロニア語ということで、その上象徴派めいた難解な詩は翻訳が恐ろしく難しいのではありますが、私のできる範囲で3曲全部の翻訳を試みてみました。第1曲は死んだ恋人のイメージでしょうか。何とも物悲しくも息の長い旋律が印象的です。第2曲はふわっと浮いているような揺らぎが上思議なゆったりとした歌。そして第3曲は熱く情熱的なスペイン情緒あふれる佳曲です。(2011.08.07)

実はこの歌曲集、5曲からなっているようで最近は5曲全部演奏されることも増えてきました。あまりその4・5曲目は前3曲ほどの魅力は感じられないのですが、残り2曲も含め5曲全部の訳をここでは取り上げることとします。

( 2017.07.16 藤井宏行 )