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Mädchenblumen   Op.22 TrV 153
乙女の花

詩: ダーン (Felix Ludwig Julius Dahn,1834-1912) ドイツ

曲: シュトラウス,リヒャルト (Richard Strauss,1864-1949) ドイツ ドイツ語


1 Kornblumen
1 矢車菊

Kornblumen nenn ich die Gestalten,
die milden mit den blauen Augen,
die,anspruchslos in stillem Walten,
den Tau des Friedens,den sie saugen

aus ihren eigenen klaren Seelen,
mitteilen allem,dem sie nahen,
bewußtlos der Gefühlsjuwelen,
die sie von Himmelshand empfahn.

Dir wir so wohl in ihrer Nähe,
als gingst du durch ein Saatgefilde,
durch das der Hauch des Abends wehe,
voll frommen Friedens und voll Milde.

矢車菊と ぼくはその姿を呼ぶ
あの青い瞳をした優しい子たちのことを
彼女らは、つつましく静かに待っている
安息の露を それが彼女たちの飲み物なのだ

彼女たちは自らの澄んだ魂から
近づくすべての者たちに伝えるのだ
意識せずに その宝石のような感情を
それは彼女たちが天の手より授かった物

お前をぼくたちはとても身近に感じる
まるで種を蒔かれた畑をお前が歩いているかのように
そこでは夕べのそよ風が吹きぬけ
敬虔な安らぎと穏やかさが満ちあふれてる

2 Mohnblumen
2 ポピー

Mohnblumen sind die runden,
rotblutigen gesunden,
die sommersproßgebraunten,
die immer froh gelaunten,
kreuzbraven,kreuzfidelen,
tanznimmermüden Seelen;
die unter'm Lachen weinen
und nur geboren scheinen,
die Kornblumen zu necken,
und dennoch oft verstecken
die weichsten,besten Herzen,
im Schlinggewächs von Scherzen;
die man,weiß Gott,mit Küssen
ersticken würde müssen,
wär' man nicht immer bange,
umarmest du die Range,
sie springt ein voller Brander
aufflammend auseinander.

ポピーの花は丸っこくて
血色が良くて 健康的で
この夏に小麦色に日焼けして
いつでもゴキゲンな性格だ
とってもお行儀が良くて、とっても明るくて
ダンスがずっと飽きずにできるほど元気で
笑いながら涙を流し
そしてまた生まれついてからずっと
矢車菊をからかい続けているみたいだ
だけれどもいつも隠している
とってもやさしい、最高のハートを
ふざけて絡みいてくる蔓の中に
誰かが、神様だけがご存知なように、キスで
窒息させるかも知れないと思っても
そいつは心配しなくても良いだろう
お前がそのお転婆を抱けば
彼女たちは真っ赤になって飛び上がり
炎と燃えるのだ 次々と

3 Epheu
3 木づた

Aber Epheu nenn' ich jene Mädchen
mit den sanften Worten,
mit dem Haar,dem schlichten,hellen
um den leis' gewölbten Brau'n,
mit den braunen seelenvollen Rehenaugen,
die in Tränen steh'n so oft,
in ihren Tränen gerade sind unwiderstehlich;
ohne Kraft und Selbstgefühl,
schmucklos mit verborg'ner Blüte,
doch mit unerschöpflich tiefer
treuer inniger Empfindung
können sie mit eigner Triebkraft
nie sich heben aus den Wurzeln,
sind geboren,sich zu ranken
liebend um ein ander Leben:
an der ersten Lieb'umrankung
hängt ihr ganzes Lebensschicksal,
denn sie zählen zu den seltnen Blumen,
die nur einmal blühen.

だけどぼくはその娘たちを木ヅタと名づけよう
とても穏やかな言葉づかいで
髪は、すっきりして明るくて
軽やかに彼女の細い眉のまわりになびき
茶色の魂のあふれた牡鹿のような瞳で
しばしば涙にくれて立っている
彼女たちの涙は自分ではどうしようもない
意志もなければ自意識もない
目立たない花で飾りけない
けれども底知れない深さの
真心のこもった感情と共に
彼女たちは自分自身の力ではできないのだ
その根でひとりで立つことが
生まれついているのだ、絡み付くようにと
愛情を込めて 別の命へと
初めてその愛を絡みつかせた者に
彼女たちの命の定めを みな賭けるのだ
だから彼女たちは希少な花のうちに数えられる
ただ一度しか咲かないゆえに

4 Wasserrose
4 スイレン

Kennst du die Blume,die märchenhafte,
sagengefeierte Wasserrose?
Sie wiegt auf ätherischem,schlankem Schafte
das durchsicht'ge Haupt,das farbenlose,
sie blüht auf schilfigem Teich im Haine,
gehütet vom Schwan,der umkreiset sie einsam,
sie erschließt sich nur dem Mondenscheine,
mit dem ihr der silberne Schimmer gemeinsam:
so blüht sie,die zaub'rische Schwester der Sterne,
umschwärmt von der träumerisch dunklen Phaläne,
die am Rande des Teichs sich sehnet von ferne,
und sie nimmer erreicht,wie sehr sie sich sehne.
Wasserrose,so nenn' ich die schlanke,
nachtlock'ge Maid,alabastern von Wangen,
in dem Auge der ahnende tiefe Gedanke,
als sei sie ein Geist und auf Erden gefangen.
Wenn sie spricht,ist's wie silbernes Wogenrauschen,
wenn sie schweigt,ist's die ahnende Stille der Mondnacht;
sie scheint mit den Sternen Blicke zu tauschen,
deren Sprache die gleiche Natur sie gewohnt macht;
du kannst nie ermüden,in's Aug' ihr zu schau'n,
das die seidne,lange Wimper umsäumt hat,
und du glaubst,wie bezaubernd von seligem Grau'n,
was je die Romantik von Elfen geträumt hat.

きみはその花を知ってるかい、メルヘンのような
言い伝えに満ち溢れたなスイレンを?
彼女たちはエーテルのような細い茎の上に
透明な 色のついていない頭を乗せている
彼女たちは森の中の葦の池の中で咲く
花の周りをひとりぼっちでめぐる白鳥に守られて
彼女たちは月明かりのもとでだけ花開く
その光でみな一斉に銀色に輝きながら
彼女たちは咲く、星たちの魔法の姉妹となって
夢見る暗い色の蛾たちに囲まれて
蛾たちは池の周りを取り巻いて遠くから憧れているが
決して手を出そうとはしない、どんなに彼女に憧れていようとも
スイレン、そう私は呼ぶ このほっそりした
夜の巻き髪の乙女たちを、その頬は雪花のようで
瞳は想いにふけっているよう
彼女たちはまるで大地に捕らえられた妖精のようだ
彼女たちが語るとき、それは銀のさざ波となり
彼女たちが黙するとき、それは月夜の深遠な静けさとなる
彼女たちは星と眼差しを交し合っているようだ
星たちの言葉は 彼女たちは使っているのと同じ性質のものだから
きみは決して倦むことはないだろう、彼女たちの瞳を覗き込むことに
絹で縁取りされた、長いまつ毛を持つ瞳を
そしてきみは思うのだ、至福のおののきの魅惑のもとで
どれだけロマンチストたちが妖精たちのことを夢に見てきたのかを


飄々とした味わいの詩に若き作曲家が味わい深いメロディをつけて人気の高い曲がいくつもある「フェリックス・ダーンの詩による5つの素朴な歌」に引き続いて、同じ詩人の詩4篇にシュトラウスがメロディをつけた歌曲集Op.22は「乙女の花 Mädchenblumen」というなかなかしゃれたタイトルがついています。四種四様の花になぞらえて、いろいろなタイプの少女たちの姿を愛情に満ちて、時にユーモラスに描き出しており、シュトラウスの歌曲の中でもたいへん味わい深い作品。4曲まとめてよく取り上げられます。これは男の視点から語られていますので、内容的には男声が歌った方がしっくりくるのですが、圧倒的に女声によって歌われていることが多いのが面白いところ。しっとりとした白井光子や繊細なバーバラ・ヘンドリックス、華のあるエディタ・グルベローヴァなど、なかなかに素敵な録音が揃っています。
1曲目のKornblumenはネットで検索してみましたら大変鮮やかな青い色をした可憐な花、楚々とした音楽に実にぴったりとくる花でした。そして2曲目のMohnblumenは鮮烈な赤い色をした花で、血色よく元気でキャピキャピ(死語)な少女たちのイメージ。ピアノのトリルは彼女たちがケラケラと笑っているようです。
第3曲目はひそやかに。日本の演歌にでも出てきそうな少々古風なキャラクターです。花は白のようです。そして最後のスイレンはいかにも水辺で夢想しているような幻想的なたたずまい。4曲の中でもっとも長大で気合のこもった曲です。
さて、あなたはどのタイプですか。それともこういう男の視点が露骨な分類はお嫌いでしょうか,,,

( 2010.04.10 藤井宏行 )