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V národním tónu   Op.73
民謡の調べで

詩: 民謡詞 (Folktune,-) 

曲: ドヴォルザーク (Antonín Leopold Dvořák,1841-1904) チェコ チェコ語


1 Dobrá noc
1 おやすみ

  Dobrá noc,má milá,dobrá noc,
  nech ti je Pán Boh sám na pomoc.
  Dobrá noc,dobre spi,
  nech sa ti snívajú milé sny!

  Snívaj sa ti sníčok,ach snivaj,
  ked' staneš,sníčoku veru daj,
  že t'a já milujem,
  srdečko svoje ti darujem.

  おやすみ、ぼくの恋人、おやすみ
  神様の祝福がありますように
  おやすみ、ぐっすりお眠りよ
  すてきな夢が見られるように!

  夢を見て、ああ夢を
  そして夢が覚めたら、また見ておくれ
  ぼくがきみを愛していることを
  ぼくはこの心を捧げているんだ

2 Žalo dievča,žalo trávu
2 草を刈る娘

  Žalo dievča,žalo trávu
  ned'aleko Temešváru,
  ked' nažalo,poviazalo,
  na šuhajka zavolalo:

 “Šuhaj,šuhaj z druhej strany,
  pod' mi dvíhat' batoh trávy!”
 “Nech ti dvíha otec,máti,
  nechce-Ii t'a za mňa dáti.

  Ešte t'a len kolimbali,
  už t'a za mňa slubovali:
  ešte si len húsky pásla,
  už si v mojom srdci riastla.”

  草刈り娘がいた、草を刈ってた
  ティミショアラの近く
  みな刈り取って、上手に束ね
  それからひとりの若者を呼んだよ

  「若い人、若い人、どこかよそから来た人ね
   来て、あたしのために草の束を運んでよ《
  「お前の父さんか母さんに頼めよ
   お前を俺の嫁にするのが気に入らないようだからさ

   お前が揺りかごにいる頃から
   お前は俺に約束してたんだ
   まるでガチョウが太らされてくみたいに
   俺の心はお前で一杯なのさ《

3 Ach,není tu
3 ああ、何もない

  Ach,není,není tu,co by mě těšilo,
  Ach,není tu,není,co mě těší.
  Co mě těšívalo,vodou uplynulo,
  Ach,není tu,není,co mě těší!

  Vždycky mně dávají,co se mně nelíbí,
  V`ddycky mně dávají,co já nechci.
  Dávají mně vdovce,ten má jen půl srdce,
  Ach,není tu,není,co mě těší.

  Ach,není,není tu,co by mě těšilo,
  Ach,není,není tu,co mě těší!

  ああ、ないの、ないの、私を喜ばせてくれるものは
  ああ、ないの、ないの、私を楽しませてくれるものは
  私を喜ばせてくれていたものは、水のように流れ去った
  ああ、ないの、ないの、私を楽しませてくれるものは

  みんな私の好きでないものばかりくれる
  みんな私の欲しくないものばかりくれる
  私にくれるのは男やもめ、心が半分しかない
  ああ、ないの、ないの、私を楽しませてくれるものは

  ああ、ないの、ないの、私を喜ばせてくれるものは
  ああ、ないの、ないの、私を楽しませてくれるものは
4 Ej,mám já koňa faku
4 エイ、私は良い馬を持っている

  Ej,mám já koňa faku,co ma dobre nosí,
  po horách,po dolách,po studenej rosi.

  Ej,mal som sikorenku,zlámala si nožku:
  podaj mi,má milá,čerstvej vody trošku.

  Ej,mal som frajerečku ako iskerečku:
  ale ma sklamala,strela v jej' srdečku!

  エイ、私は良い馬を持っている、私をどこにでも運んでくれる
  山でも、谷でも、冷たい露を振り払い

  エイ、私は小鳥を持っている、足を折ってる小鳥
  私におくれよ、恋人よ、ひとしずくの水を

  エイ、私はひとりの乙女を持っていた 火花のような
  だけど私を裏切ったのさ、心に矢を撃ち込んで


1886年、注文を受けて書いていたスラブ舞曲の第2集(Op.72)が思いのほか早く仕上がったドヴォルザークは、楽譜商ジムロックの依頼もあって歌曲を書くことを決意します。なかなか気に入った「芸術《詩がなかったため、スラブの民謡から歌詞を取り、4曲からなる歌曲集「民謡の調べで《を書きました。
このうち第3曲の「ああ、何もないの《だけがボヘミア(チェコ)の、そして残りの3曲はスロバキアの民謡の詩です。それぞれ色々な曲想で聴いていてもとても楽しいのですが、歌詞は標準の言葉ではないようで必ずしもうまく訳すのは容易ではありません。
かなり無理に訳語を当てはめたところもあり、正しい訳となっていないかと思いますがご了承ください。
第1曲目は非常に物悲しいメロディ。4曲の中でも一番有吊で取り上げられることも多いでしょうか。スロバキアの子守唄から歌詞は取られたという解説もあり、子守唄のように訳しているものも見つけましたが、個人的には詞も音楽も恋人に向けて歌うセレナーデのように私には思われましたので、私はそのように訳してみました。
第2曲はユーモラスな素朴さが歌詞には溢れていて面白いですが、分散和音を基調としたメロディは割と洗練された感じ。器楽的な感じもして一筋縄では参りません。
歌詞の冒頭に出てくるティミショアラは今はルーマニアの都市ですね。20年ほど前にルーマニアの独裁政権が倒されるきっかけとなったのがこのティミショアラでの反政府デモであったことを覚えておられる方もあるでしょうか。
第3曲はなくした恋の歌ですが、敬虔なコラールのような趣もあり、なかなかに美しく印象的です。初演の時はこの曲が一番人気があったのだとか。また同じ詩のドイツ語訳にはブラームスが曲を付けているのだそうです。こちらもチェックしてみましたが曲の雰囲気がまるで違っているのが非常に印象的でした。

    嘆き Ⅰ (ヨハネス・ブラームス)

第4曲はOp.55の「ジプシーの歌《の終曲を思わせるような力強いもの。歌のところでリズミカルに踊り出すように美しいメロディが流れ出すのがとりわけ素敵です。あの美しいメロディ満載の「スラブ舞曲《の余韻がここではっきりと聴かれるでしょうか。興味深いところです。

チェコ出身の歌手にはこの曲を愛唱している人が多いでしょうか。私がとりわけ気に入っているのは、ルチア・ポップがリサイタルで歌っているもののライブ録音(Orfeo)。温かみのある優しい声が、チェコ語の見事な響きにあいまってこの多彩な歌曲集を素晴らしく聴かせてくれます。

( 2009.10.01 藤井宏行 )