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Nuits blanches   L 94
白夜

詩: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス フランス語


1 Nuit sans fin
1 終わりなき夜

Nuit sans fin. Tristesse morne
Des heures où l'on attend! Coeur rompu,
Fièvre du sang rythmant les douces syllabes de son nom.
Qu'elle vienne la trop désirée,
Qu'elle vienne la trop aimée
Et m'entoure de son parfum de jeune fleur.
Que mes lèvres mordent le fruit de sa bouche,
Jusqu'à retenir son âme entre mes lèvres.
Ai-je donc pleuré en vain,
Ai-je donc crié en vain,
Vers tout cela qui me fuit!
Tristesse morne,Nuit sans fin!

終わりなき夜、陰鬱な悲しみ
待ちながら過ごす時間の! 破れた心
血のたぎりはリズミカルに刻む、彼女の吊の甘い綴りを
来るがよい、あまりにも大切な人よ
来るがよい、あまりにも愛しい人よ
そして私をその若い花の香りで包んで欲しい
私のくちびるに味わわせておくれ、彼女の口の果実を
彼女の魂が私のくちびるの間に挟めるようになるまで
私はむなしく泣いていたのか
私はむなしく叫んでいたのか
私から逃げ去っていくもののために
陰鬱な悲しみ、終わりなき夜よ!

2 Lorsqu'elle est entrée
2 彼女が入ってきたとき

Lorsqu'elle est entrée,il m'a semblé
Que le mensonge traînait aux pieds de sa jupe,
La lueur de ses grands yeux mentait,
Et dans la musique de sa voix,
Quelque chose d'étranger vibrait,
C'était les doux mots que je connais si bien,
Mais il me faisaient mal et entraient en moi douloureusement
Qui donc a usé son regand?
Qui donc a fané la rougeur de sa bouche?
D'où vient cette lassitude heureuse,
Qui semble avoir brisé son corps
comme une fleur trop aimée du soleil...
Oh! torturer une à une les veines de son cher corps,
L'anéantir et le consumer,
Ensevelir sa chair dans ma chair,
Avec la joie amère de L'impossible pardon,
Tout à l'heure ses mains plus délicates que des fleurs
Se poserout sur mes yeux et tisseront le voile de l'oubli...
Alors mon sang rebatta. Les plaies rouges de
Mon coeur saigneront,et le sang remontera
Noyant son mensonge. Et toute ma peine.

彼女が入ってきたとき、私には思えた
スカートのひだには嘘がぶら下がっているのだと
彼女の大きな瞳の輝きは偽りで
彼女の声の調べの中には
何かよそよそしいものが響いている
私の良く知っている甘い言葉だが
それは私を傷つけ、痛みを与えるのだ
誰が彼女の眼差しを濁らせたのか?
誰が彼女の赤い口を色あせさせたのか?
この幸福なけだるさはどこに行った
彼女の体をボロボロにした
まるで太陽に愛され過ぎた花のように
おお!ひとつひとつ愛しき彼女の血管への拷問
破壊と蕩尽
その肉を私の肉の中へと埋葬するのだ
ありえない許しの苦い喜びと共に
今や彼女の花よりも華奢な両手は
私の目の上に置かれ、忘却のヴェールを織るのだ
そして私の血はまた沸き立つ、赤い傷口から
私の心臓の傷口からは血が流れる、そして血は溢れて
彼女の嘘を沈めてしまうだろう、そして私の苦しみすべてを


ドビュッシー自作の詩につけた彼の「夢十夜《とでも言えそうなめくるめくイメージの展開が印象的な4曲からなる「抒情的散文《、その作曲からおよそ7年後の1899年、彼は5曲からなるもうひとつの「抒情的散文《とも言える自作の詩による歌曲集「Nuits Blanches《を計画します。残念ながらこの歌曲集は完成に至らず、2曲のみが書かれたにとどまりました。これら2曲も出版はされなかったようで、つい最近まで知られることなく眠っておりましたが、2000年に出版がなされたようでヴェロニク・ディエチィ(ADES)やクリスティーネ・シェーファー(DG)の録音がこのころになされています。
(シェーファーのものは1999録音で、CDのライナーには国立図書館のマイクロフィルムからのものが使用されているとの記述がありましたけれど)
ぼそぼそとつぶやくような単調な音楽、第1集の「抒情的散文《に比べても遥かに詩も音楽も晦渋ですが、音楽の緻密さには圧倒されます。作曲家の心象風景を赤裸々に表現しているという点では彼の音楽を愛する方は必聴の作品ではないでしょうか。
残り3曲がどういう内容の詩になろうとしていたかだけでも分かるとより一層興味深いところではありますけれども。
タイトルの邦訳は、直訳すると「白夜《となるところでしょうか。ただフランス語で「徹夜《のようなニュアンスもあるようで(白夜だから夜更かしするということか?)、「眠れぬ夜《というタイトルに訳しているところもありました。迷ったのですが私はやはり単純に「白夜《というタイトルを取りました。

( 2008.10.11 藤井宏行 )