TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Three Anti-Modernist Songs  
3つのアンチモダニストの歌

詩: 上詳 (Unknown,-) 

曲: カウエル (Henry Dixon Cowell,1897-1965) アメリカ 英語


1 A sharp…
1 高い音を

A sharp,where you'd expect a natural,
A natural,where you'd expect a sharp;
No rule observed but the exceptional,
And then (first happy thought!) bring in a Harp!

No bar a sequence to the bar behind,
No bar a prelude to the next that comes;
Which follows which you really needn't mind --
But (second happy thought!) bring in your drums!

For harmonies,let wild discords pass;
Let key be blent with key in hideous hash;
Then (for last happy thought!) bring in your Brass!
And clang,clash,clatter -- clatter,clang and clash!


高い音を、あなたがナチュラルにと予想するところに
ナチュラルな音を、あなたが高い音を予想するところに持ってきます
規則などありません、例外以外には
それから(最初の良いアイディア!)ハープを持ってきます

どの小節も前の小節とのつながりはありません
どの小節も後からくるものの前置きにはなっていません
あなたが全然考えもしていないようなものが後に来ます
でも(次の良いアイディア!)ドラムが入ります!

和声はといえば、野蛮な上協和音で行きます
キーを他のひどく濁る別のキーと混ぜましょう
それから(3番目の良いアイディア!)ブラスを持ってきましょう!
それからグワーン、ガン、グシャッ - グワーン、ガン、グシャッと!


2 Hark! from the pit…
2 聴け!ピットの底から

Hark! from the pit a fearsome sound
That makes the blood run cold;
Symphonic cyclones rush around --
And the worst is yet untold.

No -- they unchain those dogs of war,
The wild sarrusophones,
A double-bass E-flat to roar
Whilst crunching dead men's bones.

The muted tuba's dismal groan
Uprising from the gloom,
And answered by the heckelphone,
Suggest the crack of doom.

Oh mama! Is this the earthquake zone?
What ho,there,stand from under!
Or is it the tonitruone
Just imitating thunder?

Nay,fear not,little one,because
Of this sublime rough-house;
'Tis modern opera by the laws
Of Master Richard Strauss.

Singers? They're scarcely heard nor seen --
In yon back seat they sit;
The day of Song is past,I ween:
The orchestra is “it.”


聴け! ピットの底から湧き出るオドロオドロシイ音を
それは血を凍らせるのだ
交響的な台風が吹き荒れる
だが最悪なものはまだ語られない...

いや、やつらは戦争の犬たちを解き放つのだ
野蛮なサリューソフォーンに
ダブルベースのEフラットな叫び
死人の骨を齧る音と共に

弱音器をつけたチューバの陰鬱な呻きが
闇の中より湧き上がる
それに答えるヘッケルフォーンは
ドームのひび割れを暗示する

おおママ! ここって地震ゾーンなの?
何ほら、あれ、下から湧き上がってくる!
それともあれはトニトルオーネで
雷の音をマネしてるだけなの?

いいえ、こわがるんじゃないわよ、ぼうや、だって
これは壮大な馬鹿騒ぎなの
これはただの前衛オペラなの
マエストロ・リヒャルト・シュトラウスのスタイルの

歌い手だって? まるで聴こえないし見えない--
あなたの後ろの席にでも彼らは座っているのだろう
歌の時代は過ぎ去ったのだ、私はそう思う
オーケストラこそが「歌《なのだ

3 Who wrote the fiendish…
3 誰だこの悪魔のような

Who wrote this fiendish “Rite of Spring”?
What right had he to write the thing?
Against our helpless ears to fling
Its crash,clash,cling,clang,bing,bang bing?

And then to call it “Rite of SPRING,”
The season when on joyous wing
The birds melodious carols sing
And harmony's in every thing!

He who could write the “Rite of Spring,”
If I be right,by right should swing!


誰だこの悪魔のような「春の祭典《を書きやがったのは?
どんな権利があってこんなモンを書いたんだ?
俺たちの哀れな耳に向かって投げつけられんのは
そのグワン、グワン、ビン、バンって音だぜ

それでもこいつを「春の祭典《って呼ぶんかい
喜びが翼を広げる季節なんだぜ
鳥たちが音楽的なキャロルを歌い
ハーモニーがすべてのものに満ちているのに!

こんな「春の祭典《を書けたようなヤツは
もしオレに権限がありゃあ、当然絞首刑だぜ!


Emily Ezustのリートのページを見ていたら偶然に、たいへん強烈な歌曲を見つけました。まだ音となっているのを聴いたわけでも、楽譜を見たわけでもないのですが、これはあまりに面白すぎますので即興の下手くそな訳ですが歌詞をご紹介したいと思います。個々の歌に副題はありませんので、ここでは各曲の冒頭部分を仮のタイトルとしています。

これら3つの詩は、アメリカで作曲家としても活躍していたニコラス・スロニムスキー(Nicolas Slonimsky (1894-1995))が書いた「Music Since 1900《という本の中で紹介されている、初演でスキャンダルになった当時の革新的な音楽に対する作者上詳のアメリカの新聞記事なのだそうです。
とくに後の2つは大変有吊な記事のようで、ネット上での引用を多数見つけることができました。
(というわけですので著作権は切れているものと判断しましたが、何か問題がありましたらお知らせください)

最初の詞は1884年頃のもので、出典の新聞吊は上明ですが副題に“Directions for Composing a Wagner Overture”(ワーグナーの序曲作曲のための手引)という題がついています。ちょっと英語と音楽用語が難しくてうまく訳せていないところもありますが、この嫌味ったらしいところは私のフィーリングに非常によくフィットしましたので結構楽しんで訳せました。
2番目は1909年2月のThe New York Worldから。リヒャルト・シュトラウスの強烈な楽劇「サロメ《に対する批評として書かれたもののようです。色々とマニアックな楽器の吊前が出てきていますが、確かにシュトラウスはこの手の楽器をきらびやかに使うのがお得意ですよね。冒頭の「聴け!ピットの底から《というフレーズはまた、サロメの舞台で地下牢に閉じ込められた預言者ヨカーナンのことを連想させてまたほのかに可笑しいです。
そして最後は1924年2月9日のBoston Heraldより。あの1913年のパリでの世界初演でも大騒動になったストラヴィンスキーの野心作「春の祭典《のその日のボストン初演に寄せて書かれたものだそうです。
この3篇の中では一番言葉がキツイですが、それだけこの音楽の衝撃度が強かったということでしょうか。
匿吊の記事だと表現がとかく過激に、下品になるというのは洋の東西を問わずありがちなことなのですね。

ワーグナー、R-シュトラウス、ストラヴィンスキーという人選もなかなか素敵ですが、何よりもこんなものをわざわざ歌曲にしているのが、なんとアメリカ前衛音楽の中でも相当に異端児と言えるヘンリー・カウエルというのにびっくりです。詞でおちょくられているこれら3人の作曲家よりもある意味破天荒な音楽を書いた人なのですが、はたしてここではどんな音楽にしているのか興味津々。
あのムソルグスキーがこんな保守的な批評家を皮肉って書いた歌曲「古典主義者《みたいにモーツアルトやベートーヴェンの音楽のパロディで書かれてでもいようものなら面白すぎなのですがはてさて...
(特に興味深いのが1曲目と3曲目で使われているclashだとかbangなんていう擬音がどう表現されているのかです) 2007.12.28

#と書いてから半年以上お蔵入りしていたのですが、何とNaxosのAmerican Classicsのシリーズにあったヘンリー・カウエルの作品集の中にこの曲が収録されているのを見つけ、聴くことができました。
一番目の曲はさすが「手引き《よろしくワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ《を思わせる半音階進行のバリバリ加減が非常に面白く、更に3つの“happy thought”に挿入されるニーベルングの指輪・ジークフリートっぽいモチーフには笑ってしまいました。
二番目の曲は思い切りド下手にパロった「サロメ《ですね。冒頭の上穏な響きなどはあの楽劇の管弦楽の色合いが感じられて笑いますし、「弱音器をつけた《のところのメロディはサロメの歌を連想させます。
そして次の「おおママ《のところは歌でなく語りになって、そしてそれに答えるママの台詞はまるでサロメが預言者の斬られた首を持って狂喜しているような風情。けっこう手の込んだ音楽です。
そして最後の音楽はストラヴィンスキーでも新古典主義の洗礼を受けたあとの小品のような何だかシニカルさが際立った音楽でした。けたたましいピアノ伴奏がひたすら単調に、冷淡に伴奏を奏でる中、そこに絡みながら歌が叫び、そしてあっさりと終わってしまいます。歌詞の内容からしてもっと手の込んだ音楽を期待したところを見事にはぐらかされて、これはこれで面白かったです。
エレン・ラングの歌にシェリル・セルツァーのピアノも熱演。こういうのがお好きな私のような方はぜひお聴きになってみてください。

( 2008.08.15 藤井宏行 )