Trois Poèmes de Stéphane Mallarmé L 127 |
ステファヌ・マラルメの3つの詩 |
1 Soupir
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1 溜息
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Un automne jonché de taches de rousseur, Et vers le ciel errant de ton oeil angélique Monte,comme dans un jardin mélancolique, Fidèle,un blanc jet d'eau soupire vers l'Azur! - Vers l'Azur attendri d'Octobre pâle et pur Qui mire aux grands bassins sa langueur infinie Et laisse,sur l'eau morte où la fauve agonie Des feuilles erre au vent et creuse un froid sillon, Se traîner le soleil jaune d'un long rayon. |
そばかすでいっぱいの秋に そして天使のような君の瞳の漂う空へと 向かっていく、まるで憂いに満ちた庭の中で 絶え間なく、白い噴水が青空に向かって溜息をつくように -青空に向かって、青白く澄んだ十月の穏やかさは 大きな湖面に限りない憂鬱さを映し出し そして漂わせる、死んだような水の上に褐色の苦悩を 枯葉の苦悩は風に乗って 冷たい轍を描く 黄色い太陽の長く伸びた光がその上をなぞっていく |
2 Placet futile
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2 空しい願い
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Qui point sur cette tasse au baiser de vos lèvres; J'use mes feux mais n'ai rang discret que d'abbé Et ne figurerai même nu sur le Sèvres. Comme je ne suis pas ton bichon embarbé Ni la pastille,ni rouge,ni jeux mièvres Et que sur moi je sens ton regard clos tombé Blonde dont les coiffeurs divins sont des orfèvres! Nommez-nous... toi de qui tant de ris framboisés Se joignent en troupeaux d'agneaux apprivoisés Chez tous broutant les voeux et bêlant aux délires, Nommez-nous... pour qu'Amour ailé d'un éventail M'y peigne flûte aux doigts endormant ce bercail, Princesse,nommez-nous berger de vos sourires. |
あなたの唇が触れるこのカップに描かれているからですが 情熱が燃えつつも、わたくしの身は慎ましき聖職者でございますゆえ セーヴェル焼にこの裸の姿を描かれることはないでしょう わたくしはあなたの愛玩犬ではございませぬし お菓子でも、口紅でも、気のきいた玩具でもございませぬが わたくしにあなたの閉じられた眼差しが降り注いでおるのを感じます 金細工師が神業のようなヘアーメイクをするブロンドの髪のあなた様の! わたくしたちに吊をください...キイチゴのような笑い声をなさるあなた様は 飼い慣らされた羊の群れに混じって 願い事を食い荒らし、得意そうにいなないています、 わたしたちに吊をください...扇のような翼を持つ愛の神様が 笛を手に羊小屋を眠りにつかせるわたくしの姿を描いてくださるように プリンセスよ、わたしたちにあなたの微笑みの羊飼いという吊をください |
3 Eventail
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3 扇
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Au pur délice sans chemin, Sache,par un subtil mensonge, Garder mon aile dans ta main. Une fraîcheur de crépuscule Te vient à chaque battement Dont le coup prisonnier recule L'horizon délicatement. Vertige ! voici que frissonne L'espace comme un grand baiser Qui,fou de naître pour personne, Ne peut jaillir ni s'apaiser. Sens-tu le paradis farouche Ainsi qu'un rire enseveli Se couler du coin de ta bouche Au fond de l'unanime pli ! Le sceptre des rivages roses Stagnants sur les soirs d'or,ce l'est, Ce blanc vol fermé que tu poses Contre le feu d'un bracelet. |
この純粋な喜びに 道なきところから 巧みな偽りで ぼくの翼をきみの手に持っていて欲しいのだ たそがれ時のさわやかな空気は 一度あおぐたび毎にきみに届き この捕らわれた扇のはばたく音は広げていく 地平線を ほんのささやかに めまいがする! 今ここで震えているのは 大きなくちづけのようなこの空間 誰かのために生まれようともがくけれども あふれ出ることも 静まることもできないくちづけのような きみは感じるかい 残酷な楽園を 秘められた笑いのように きみの口元から湧き出してきて きれいに揃った襞の底へと広がっていく バラ色に輝く王の杖が この金色の夕暮れによどんでいる、それこそが 閉ざされた白い飛翔 きみが巻き起こしたのだ そのブレスレットの輝きのそばに |
ドビュッシー歌曲の集大成としては、初期に一曲だけ取り上げた詩人ステファヌ・マラルメの詩を3篇取り上げたこのような歌曲集が作られました。くしくもモーリス・ラヴェルも同じステファヌ・マラルメの詩を3篇取り上げて歌曲集を書いており、しかも偶然にも初めの2曲の詩は全く同じものが選ばれています。
それら2つの詩の解釈と解説につきましてはラヴェルの項をご参照頂くとしまして、両者を聴き比べての感想は、ラヴェルの作品が詩はあくまでも素材でしかなくて、それを踏み越えたところに独自の音楽世界を生み出したという感じがするのに対し、ドビュッシーのものはまさに詩そのものに寄り添い、それを生かす形で音楽が書かれているといった感じがします。それだけにラヴェルのものは音楽だけ聴いていても凄さが分かりますが、ドビュッシーのものはこうして歌詞を読み解くまで、私にはどうもピンとこない音楽のままであり続けました。今回こうして自分で拙いながらも訳をやってみて、この曲の凄さがようやく私にも見えてきたような気がします。詩からも感じ取れるほのかなユーモアがにじみ出てくるのはやはりドビュッシーの方、その意味で第3曲目にこの詩「扇《を持ってきたのも頷けるように思いました。マラルメには「扇《というタイトルの詩がいくつかあっていろいろな人に捧げているようですが、これはその中でも「マラルメ嬢に《という副題がついています。ぶっちゃけてこの詩を読んでの感想を言えばおしゃれなフェティシズムですね。しかも娘(たぶん)に捧げているところがなかなかに意味深長。そんな感じを音楽から聴き取って頂ければと思います。
( 2007.11.17 藤井宏行 )