海四章 |
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馬車
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すずろかに馬車はゆくらん 空青く 雲白く 窓なかば閉じしホテルの うら藪に啼ける山鳩 海青く 薔薇白く |
蝉
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こぞありしそこの垣根に 黄金(こがね)なす日まはりの花 こぞありしここの築地(ついじ)に さながらにその花咲けり こぞの夏かよひし小径 蝉もまたかなたの松に 海青き林に鳴けり |
沙上
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紅(くれない)にもえもはてたれ なほしばしかぎろふ浦曲(うらわ) 羽しろく砂をかすめて ひとむれの千鳥はかなた 黄昏に まぎれて啼けり そら耳の そらにはあらず そのこゑのありとしもなく ゆきまどひ はたと絶えたれ 折からや月かげあはく なにものの 飛沫なるらん 旅人の頬にしげけり |
わが耳は
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朝夕に海をききつつ つたなくもかく わが世古(ふ)りゆく |
( 2019.01.13 藤井宏行 )