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Prosti!    
 
さらば  
    

詩: ネクラーソフ (Nikolai Alekseyevich Nekrasov,1821-1877) ロシア
      Прости (1856)

曲: デュビュック (Alexandre Dubuque,1812-1897) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Prosti! ne pomni dney padenya
toski unyn'ya,ozloblen'ya.
ne pomni bur',ne pomni slez,
ne pomni evnosti ugroz!

No dni kogda lyubvi svetilo
nad nami laskovo vskhodilo
i bodro my svershali put',
blagoslovi i ne zabud'!
さらば!昔の不幸なことなど思い出すな
憂鬱を、わびしさを、そして苦悩を
思い出すな いらだちを、思い出すな 涙を
思い出すな 恐ろしい嫉妬の炎を!

だが、あの愛の喜びに満ちた日々を
我らに暖かい日差しがあたり
すべてが生き生きと輝いていた日々に
感謝せよ 決して忘れるな!


数少ないネクラーソフの詩に付けた歌曲、もう1曲はあまり知られていない作曲家ですがアレクサンドル・ドゥビュク(デュビュック)のものを取り上げてみます。
彼は1812年生まれですからほとんどダルゴムイシスキーと同年、ちょうどグリンカやヴァルラーモフなどのロシア音楽のパイオニアの世代と、バラキレフやムソルグスキーなどのロシア5人組の中間の世代に当たります。私も今回ロシア歌曲を深く探訪するまでは全く意識していなかった名前ですが、ゴルチャコーワのロシア歌曲集などでも名前をみかけましたのでちょっと興味を惹かれました。
グリンカがロシア歌曲のモーツァルトで、5人組以降がシューベルトやシューマンだとすれば、このドゥビュクの作風はドイツリートの世界でいうとウエーバーやシュポアあたりの前期ロマン派の素朴な美質を感じさせるもの。その気で聴くとけっこういい気持ちになれます。
今回そんなドゥビュクの作品を集中してたくさん聴かせてくれたのが、ギター伴奏によるロシア歌曲というアルバムであったので余計にそう感じたのかもしれません。
(Kaia UrbのソプラノにHeiki Matlikのギター Harmonia Mundi France HMU907386)
ギター伴奏というとドイツ歌曲やフランス歌曲、あるいはスペイン歌曲などではよく見かけるスタイルですけれども、ロシア歌曲とギター、というとちょっと意外な感じ。ところがこれが驚くほどのハマり具合で、しっとりとした声とひそやかなギターのおだやかな調和は絶妙です。このCDの中で有名な曲というとチャイコフスキーの「騒がしい舞踏会の中で」しかないのですけれども、この曲がこれほどのエレガンスを持って響いたことを私は他に知りません。
この「さらば」もロシア語のくぐもったような響きに穏やかなギターの伴奏がついて大変爽やかな味わい。この他にもドゥビュクの作品を4曲、ワルラーモフ、シリャーエフ、ブラーホフなどめったに聴けないロシアン・ロマンスの秘曲を聴かせてくれてたいへん素晴らしいCDです。

詩はネクラーソフお得意の叙事的な庶民の生活描写をしたものではないですが、ネクラーソフにもこんな詩があったのだ、というのが興味深いです。そしてこの同じ詩にキュイとチャイコフスキーがメロディをつけているというのも興味深いことでした。

( 2006.01.21 藤井宏行 )


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