Anything You can do Annie Get Your Gun! |
あんたにゃ負けない アニーよ銃を取れ |
詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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あなたのできること なんでもできる あなたよりも うまくやれる 無理さ やれるわ 無理さ やれるわ そうよ そうよ やれるわ (著作権のため歌詞は冒頭部分の訳のみです) |
最近DVDで、1930〜50ころの欧米の名画がたったの500円で大量に売り出されているのを書店などでよく見かけられるのではないでしょうか?私もいろいろと買い漁り過ぎて見る間もなかなかないほどなのですが、見たい見たいと思っていたが果たせずにきていた幾多の作品を目にすることができたのは有難い限りです。
つい最近アメリカの某企業が商売繁盛を今後も永遠に続けることのためだかどうか知りませんが、著作権保護期間が日本でも製作後50年から70年に延ばされてしまった映像作品ですが、かろうじて1953年までの作品はその網をすり抜け、こうして容易に多くの人の手に入るようになってくれたのは(保護期間は延長されても、既に切れた過去の作品に遡及することはないようなので)良かったことです。もっとも著作権法を厳密に解釈すると、そこで使われている音楽や歌詞はそちら方の著作権が適用されるとアウトになるような気もするのですが(音楽などの著作物の方は作者の死後50年...)、もしイチャモンがあっても「血を流さずに心臓を取れ」(byシェイクスピア)みたいな名裁判でこれらのDVDが駆逐されないことを祈るばかりです。
さて、そんな中でこの正月に初めて見ることのできた1950年のMGMミュージカル映画「アニーよ銃を取れ(Annie Get Your Gun!)」がことのほか面白かったので取り上げます。この作品、作曲者のアーヴィン・バーリンが作品中に出てくるネイティブ・アメリカンの描写が差別的だということで1973年から上映を禁止し、つい最近まで幻の映画となっていたものです。バーリンはけっこう作品のコピーライツに厳しくて、確か「ホワイトクリスマス」の外国語への翻訳なども許可していなかったのだそうですね。日本語訳の歌詞を正確に紹介しようということで評価されて巻を重ねている労作「JAZZ詩大全」でもアーヴィン・バーリン作品は作者が死去して遺族がOKを出すまで取り上げられず、バーリン編だけ別に出ていたように思います。
と脱線はさておきこのお話、主人公のオハイオの田舎村育ちの娘アニー・オークレー(実在の人物だそうです)は神業的な射撃の腕の持ち主なのですが、たまたま出会ったショーの花形スターガンマンのフランク・バトラーに一目惚れ、結婚できるかもとつられてショービジネスの世界に誘われます。華のある彼女はやがてショーの主役に大抜擢され、プライドを傷つけられていじけたフランク・バトラーは云々...という筋なのですが、私がとりわけ面白いなあ、と思ったのは、「才能ある女性はその才能をうまく隠さないと男社会では生きにくい」という事実?をあまりにも露骨に(しかもユーモラスに)描いていることです。
男尊女卑のオヤジにも戦闘的なフェミニストの方々のいずれにも衝撃的?なそのラストや、“You can't get a man with a gun”なんていうナンバーなど、厳格なフェミニストの方はどういう解釈や評価をするのかなあ、などと興味は尽きないところですが、私には(主演のベティ・ハットンの名演技もあって)彼女はとてもチャーミングに見えます。うーん、賢い女性はやはり底知れずしたたかですねえ...
ということで、この作品中もっとも私には意味深長なナンバー“Anything You can do”、仲直りしかけたフランクとちょっとしたことでまた口喧嘩となり、「あんたのできることなら私なんでもできるわ“Anything You can do I can do better”」と互いに意地を張り合うデュエットです。「無理さ”No you can't!”」と「できるわ”Yes I can”」の掛け合いがとても小気味良く響きます。初めは射撃の腕前のことでの言い争いですが、続いて「高い声が出る」だとか「買い物を安く値切れる」「早飲みができる」なんて他愛ないことで張り合っているのが微笑ましい。軽快で楽しいメロディのたくさんあるこの作品でも指折りの名曲だと思います。
このデュエット、非常に珍しい歌手の取り合わせとしてはイタリアオペラの大物2人、ジュリエッタ・シミオナートとエットーレ・バスティアニーニが歌っています。あんまりオペラ歌手向きの曲じゃないんですが(ちょっとシミオナートの歌には違和感もないではないです)、バスティアニーニは巧いですね。ヘルベルト・フォン・カラヤンが指揮したヨハン・シュトラウスのオペレッタ「こうもり」の第2幕で名歌手たちを集めたガラコンサートの最後を締めるのがこの曲です。このガラコンサートの部分はカラヤンは振っていないという話もありますが、もし彼の指揮のウイーンフィルハーモニーの伴奏だったとしたら随分と豪華な演奏ですね。
80〜90年代に流行した、当時のオペラ歌手を多く起用して名作ミュージカルをリメイクするシリーズではさすがにこの曲はキリ・テ・カナワやプラシド・ドミンゴなんていうコアなオペラ歌手は出せずに、キム・クリスウエルとトマス・ハンプソンの2人で入れています(ジョン・マッグリン指揮のロンドンシンフォニエッタ:EMI)。ノリの良さと歌の巧さとがバランスが取れてなかなか素敵なリメイクです(ちょっと上品すぎるような気もするがそれが新鮮)
ただ、オリジナルを歌ったエセル・マーマン、この人の迫力は桁違いです。まさにこの「アニー」、彼女のために存在するかのような説得力。この全編スイングするような躍動感溢れる作品を十二分に表現してくれています。この曲での口喧嘩などまるで関西新喜劇のノリで聴いていてもウキウキしてしまいます。
私の持っているのは1946年のオリジナルキャスト盤ではなくて、その20年後にリバイバルされた舞台の盤(RCA)。もう彼女も50代の半ばを過ぎていたはずなのですがそれでも強烈。
他に何があるかな、とNET検索してみると、ビング・クロスビーがこのエセル・マーマンと一緒に歌ったもの、映画のサントラのベティ・ハットンとハワード・キール、そして映画で当初アニー役を予定されていたジュディ・ガーランドとハワード・キールといったけっこう興味深いデュエット録音が見つかりました。ただそれよりもっとびっくりしたのが1986年のロンドンキャスト。私はハードロックの歌手だとばかり思っていたスージー・クアトロがアニーを歌っています。これはAmazon.comで試聴してみましたがなかなか良いです(相手はエリック・フリンという俳優)。あわてて調べてみると、アンドリュー・ロイド・ウエバーが彼女を口説いて起用したこと、90年代には日本にもこのプロダクションの公演が来たこと、などがネットで情報として拾えました。裏を取っていないので間違いもあるかも知れませんが興味深いです。どなたかこの日本公演を観られた方があれば教えて頂けると嬉しいです。
日本語の公演は観たことがありませんので勝手な論評になりますが、1964年の初演は江利チエミ・宝田明のコンビ、オリジナルのマーマンのインパクトを日本で十全に表現できるとしたらやはり彼女でしょうか?なかなか説得力のあるキャスティングです。が、その後の再演は路線が大きく変わって上で挙げたキム・クリスウエルみたいなもう少し軽い感じのアニーが続いています(男性の方は全般に濃いままのようですが)。
1980は桜田淳子・あおい輝彦
1988は島田歌穂・にしきのあきら
1997が高橋由美子・石川禅
いやあ、面白いコンビが続くと思いませんか?録音があれば聴いてみたい人たちばかりです。ちなみにこの「アニー」の日本語舞台詞は女優の中村メイコさんが作ったということだそうで、こちらもちょっと興味が引かれるところです。そこでは“Anything You can do”、邦題が「あんたにゃ負けない」
これはとっても素晴らしいセンスですね。
( 2005.01.03 藤井宏行 )