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阿知女    
 
Achime  
    

詩: 不詳 (Unknown,-) 
       原詩:古代の神楽

曲: 松村禎三 (Matsumura Teizou,1929-2007) 日本   歌詞言語: 日本語


アチメ オオオオ アメツチニ
キユラカスハ サユラカス カミワカモ
カミコソハ キネキカウ キユラナラハ

アチメ オオオオ イソノカミ
フルヤシロノ タチモカト ネカフソノコニ
ソノタテマツル

アチメ オオオオ サツヲラカ
モタキノマユミ オクヤマニ ミカリスラシモ
ユミノハスミユ

アチメ オオオオ ノホリマス
トヨヒルメカ ミタマホス モトハカナホコ
スエハキホコ

アチメ オオオオ ミワヤマニ
アリタテル チカサヲ イマサカエテハ
イツカサカエム

アチメ オオオオ ワキモコカ
アナシノヤマノ ヤマノモト ヒトモミルカニ
ミヤマカツラセヨ

アチメ オオオオ タマハコニ
ユフトリシテテ タマチトラセヨ ミタマカリ
タマカリマシシカミハ イマソキマセル

アチメ オオオオ ミタマミニ
イマシシカミハ イマソキマセル タマハコモチテ
サリクルミタマ タマカヘシスナヤ

ヒト フタ ミ ヨ イツ ムユ ナナ ヤ ココノ タリヤ



CDをかけた瞬間に壮絶なブラスの咆哮と打楽器の乱打の中、ソプラノが絶叫する冒頭、いったいこれは何なんだ、と度肝を抜かれてしまいました。騒音も音楽だ!とばかりに「イオニザシオン」などけたたましい音楽をいろいろ書いていた現代作曲家エドガー・ヴァレーズも真っ青なド迫力です。あるいはバーバリズム溢れる「春の祭典」を書いた初期のストラヴィンスキーの日本版といった趣か?
声付きであるということや昔の音楽のリメイクという意味ではカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」の爆発力も連想されます。今や毒気や猥雑さをほとんど抜かれて、年寄りのひそやかな楽しみとしての存在感しかなくなってしまったような、みやびな邦楽の世界からは想像もできないこの弾けるパワーは、実は忘れられたかつての日本文化の一面を炙り出しているのではないでしょうか???

と、このほかにも日本古代の土俗感やエネルギーに想を得た作品をいくつか書いている松村禎三さんの若き日の快作。これは古代の神楽の鎮魂の儀式からテキストを得28歳の時に書かれた作品なのだそうですが、CDのライナーノートによれば、当時主流であった12音主義やポストウェーベルン等の前衛的な方向に反発しできるだけ生命力のある作品を書きたいと思って書いたものだそうです。
確かに岡本太郎の「芸術は爆発だ」みたいに、爆発するようなエネルギー感の溢れる火炎式土器を生んだ縄文時代、そんな時代の人々の生活をイメージさせるような(実際松村氏はまさに縄文のイメージでこれを書かれたものだとか)力作です。普段は理知的なイメージの強い藍川由美さんも、その姿をかなぐり捨ててトランス状態になった生贄の乙女のような激烈な歌声で大熱演!打楽器には吉原すみれさんも参加され、大変豪華な演奏になっています(松村禎三作品集W・Camerata)

ここで取り上げられている鎮魂(みたまふり)の儀式とは、弱った生命エネルギーを呪術によって復活させようという儀式で、太陽の力がもっとも弱くなる冬至の時期に宮中で行い、太陽の復活と来年の豊作を祈る行事だそうです。
(もっとも現代の神楽では、阿知女作法(あじめのさほう)として10月の半ばの秋期例大祭に行われているようですけれども)
そういう沈滞した状態だからこそ、あえて爆発するようなパワーを祈りに込めるというのは古代からの祭りの本来のありかたなのかも知れません。クリスマスや正月がすべてこの冬至の近くに集まっているというのも、そういう観点からすると意味深長です。

さあ、皆さんもこれを聴いて、古代パワーを貰ってこの冬を乗り切りましょう!

( 2006.01.01 藤井宏行 )


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