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Fiocca la neve    
 
雪が降ります  
    

詩: パスコリ (Giovanni Pascoli,1855-1912) イタリア
    Myricae - Creature 4 Orfano

曲: チマーラ (Pietro Cimara,1887-1967) イタリア   歌詞言語: イタリア語


Lenta la neve fiocca,fiocca,fiocca.
Senti: una zana dondola pian piano.
Un bimbo piange, il piccol dito in bocca.
Canta una vecchia, il mento sulla mano.

La vecchia canta:
Intorno al tuo lettino c'e rose e gigli
come un bel giardino.
Nel bel giardino il bimbo s'addormenta,
Fiocca la neve lenta,lenta,lenta.

ゆっくりと雪が舞います、ちら、ちら、ちらと
ほら、ゆりかごがゆれてます、ゆら、ゆらと
赤ちゃんが泣いてます、ちっちゃい指を口に入れて
おばあさんが歌います、あごの下に手をのせて

おばあさんは歌います
「お前の小さなベッドのまわりにはバラやユリがあるのよ
 まるできれいなお庭みたいに」
美しい庭の中で 赤ちゃんは眠りにつきます
雪が舞います、ゆっくりと、ゆっくりと


私にはイタリアというとあまりこんな風に雪がしんしん降るイメージはないのですが、よく考えてみれば来年の冬季オリンピックもイタリアのトリノでありますし、北の方のアルプスと接しているあたりではこんな感じの雰囲気がぴったりとくる寒村もきっとあるのでしょうね。ナポリやシチリアのような南の方でも降るときは降るようなのでけっしてイタリアと雪は無縁というわけではなく、事実雪を題材とした歌曲もイタリアにはこれに限らずいくつもあります。しかしこの詩、何か奥羽地方の民話の一場面のようにとてもしっとりとして味わいがあるように思われませんでしょうか。音楽の方もピアノの穏やかな連打がしんしんと降り積もる雪を描写して見事ですし、ひそやかに、そしてちょっと物悲しく歌われる歌もとても素敵です。おばあさんの言葉の部分で夢見るように美しいメロディに変わるのが、また再び最初のほんのりと悲しいメロディと雪の伴奏に戻って消えていくあたり本当によくできた歌だなあ、と思いました。詩人のジョバンニ・パスコリ(Giovanni Pascoli(1855-1912))は幼年期に体験したこんな田舎の生活を歌にした抒情詩人で、イタリア近代においてはダヌンツィオに並ぶ大詩人なのだそうで、イタリア近代の作曲家も歌曲にしばしば取り上げています。
そしてこの歌の作曲はピエトロ・チマーラ、あんまり管弦楽やオペラ中心のクラシック音楽ファンには知られていない人のようですが、歌を勉強される方にはおなじみの名前でしょうか。イタリア歌曲の楽譜などではよく名前を目にします。彼のキャリアはオーケストラやオペラの指揮者としての方が存命中は名高く、特にニューヨークのメトロポリタンオペラの主席指揮者を1927年から1958年にかけて勤めたという記録があります。ロッテ・レーマンだとかレナード・ウォーレンといった往年の歌手の録音にはその関係もあってか彼の作った歌曲が1〜2曲収録されていたりしますが、最近流行のイタリアオペラの歌手の人々の中ではあまり目を向ける人は多くないようです。
そんな中では素敵な近代イタリアの歌曲集を録音されているソプラノの松本美和子さんがそこでたくさん取り上げているのが目を引くところでしょうか。彼女の歌うトスティの歌曲でも感じたことですが、緻密で繊細な歌唱はオペラや古典歌曲よりもこんな歌でこそ魅力がより一層引き立ち、事実この曲も溜息がでるような美しさで歌われます。ピアノ伴奏のスカレーラも見事。
あとはメジャーなところでは足立さつきさんの録音にこの曲が収録されているのがあるようですがこれは未聴です。イタリアの歌手ではマーラ・ザンピエリの歌ったのを見つけましたが(MYTO)、ちょっと大味な感じで残念でした。オペラ歌手としては素晴らしい人でしたがこの録音ではちょっと盛りを過ぎた感じがあるのと、この曲のムードがヴェルディを歌うような歌い方ではちょっと魅力を損なってしまうのではないかといったところを感じたのです。

更に入手は厳しいかも知れませんが、広島在住のテノール山岸靖さんがチマーラの歌曲ばかり21曲あつめたアルバムがあってこの中でもとても魅力的に歌われていました。氏の解釈ではおばあさんの言葉のところでテンポや表情を大きく変えてここの部分をとても強調している歌い方が新鮮でした。他の曲も素晴らしいものばかりで、トスティの歌曲のお好きな方はきっと気に入られることでしょう。ちょっと強引な喩えですがドイツリートに置き換えると、トスティが近代イタリア歌曲界のシューベルトかシューマンだとすれば、このチマーラはR-シュトラウスにあたるような感じの曲を書いた人です。近代イタリアにはこんな風に声楽をやる人にしか知られていない素敵な作曲家が他にもいるように思います。機会があればもう少し探訪してみましょう。

( 2005.12.22 藤井宏行 )


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