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Still Falls the Rain (The Raids,1940,Night and Dawn)   Op.55  
 
カンティクル第3番 雨はなお降り続く(1940年の爆撃に 夜から暁の)  
    

詩: シットウエル (Edith Sitwell,1887-1964) イギリス
      

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
雨はなお降り続く
人の世のように暗く 失ったもののように黒く
十字架に打たれた1940本の釘のように闇雲に

...

雨はなお降り続く
十字架にかけられた人の足元に
そこで毎日毎日、毎夜毎夜釘を打たれるキリストは
われらの救済を負っておられるのだ

...

そして声が聞こえる。かつて野獣の中に放りだされた人の言葉が
「我はまだ愛する。まだ無垢の光で照らし続ける。わが血は汝等のものだ」

(著作権のため大意の紹介に留めております)


ベンジャミン・ブリテンの歌曲集「カンティクル」は第5番まであり、さまざまな詩人の詩によるキリスト教のさまざまな情景を描いた歌曲集ですが、その第3番はイギリスの女性詩人イーディス・シットウエル(1887 - 1964)の詩による受難曲。副題に「1940年の爆撃に」とあるように、ドイツ軍の空襲にあけくれたイギリス本土の夜にキリストの受難に思いをはせて書いた詩に付けた音楽です。
降り続く雨は空からの爆撃の比喩か。そしてまた爆撃の音はイエス・キリストを十字架へと打ちつけたたくさんの釘を打つ響き、そしてそこから流れ出るイエスの血の描写へと重なります。
隣人への愛を、赦しを説いたキリストが生まれてから1940年たっても、罪を背負った人間たちはいまだ憎しみからこんな戦争をまだ続けている。闇の中、防空壕のようなところに隠れて爆撃の恐怖に耐えるというのは体験したことのない私にはとても実感はできませんが、恐らくこんな風に人知を超えた神の領域にと心は飛んでいくのでしょう。私はクリスチャンではありませんが、バッハの受難曲やモーツアルトのレクイエムに感動してしまうのと同じくらいこの詩の祈りの気持ちには感じ入るところがありました。戦時下という極限状態にあるがゆえにより研ぎ澄まされた言葉が心に突き刺さってきます。

この曲の初演は1955年、ブリテンの声楽曲の名解釈者として鳴らしたテノールのピーター・ピアーズに、夭折したホルンの名奏者デニス・ブレイン、それに作曲者自身のピアノで行われたといいます。作詞者のシットウエルもそのとき聴いて、感動のあまりその夜は眠れなかった、という逸話も紹介されていました。
BBCのアーカイブにそれから1年後、同じメンバーで収録したものがあり、私はそれで聴くことができました。
受難曲の福音史家が語るかのような、淡々とした、しかし悲しみをたたえた歌に、ホルンがこだまするかのように掛け合い、そしてピアノが訥々と伴奏をつける、雄弁さや親しみやすさはない曲ですけれども、キリストの受難以降も延々と流れ続ける砲弾と血の雨に対するやるせない思いはひしひしと伝わります。最後はそれでも希望に満ちた言葉で終わるのが救いでしょうか。

あまりに渋すぎる曲ですので(ブリテンの歌曲自体が全体的に渋いものが多いのですけど)、どなたでもお奨めというわけには行きませんが、20世紀に生まれた重要な宗教曲のひとつとして目を向けてくだされば幸いです。最近Naxosからこのカンティクル全曲を1枚のCDに入れたものもリリースされたばかりでもありますし。

( 2005.08.03 藤井宏行 )


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