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Schickelgruber    
 
シッケルグルーバー  
    

詩: ディーツ (Richard Watson Dixon,1833-1983) アメリカ
      

曲: ワイル (Kurt Weill,1900-1950) ドイツ→アメリカ   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
チロルの寂れた村で
ひとりの老女が苦悶してた
彼女は苦悩のあまり 心は重かった
わが子のことを考えていたのだ
もしもこの子がエビーという名がついていたら
たぶん果たすことはなかったのだろうに
あのモンスターの役割を と

もしも息子が結婚さえしていたら
もしも彼女の欲情が間違わなかったのなら
誰が断言できるというのだ
こんなことにはならなかったはずだと
黒い悲しみの喪服を着て
彼女は望んでいる いくばくかが明日には
熱情を冷ましてくれるだろうと 罪を生むことになる熱情を

シッケルグルーバー シッケルグルーバー
お前は生まれたのだ 恥の子として
お前はずっと私生児だった
たとえ変えたところで お前の名を
ニュースのヘッドラインに現れ それから飢餓の線上だ
お前の権力が大きくなるにつれて

(詞は大意です)

洒落たジャズヴォーカル風のこの歌がYoutubeでもいくつかアップされています。小気味よいテンポで楽しげに歌っているのですが、第二次大戦中の1942に書かれたこの曲、歌詞が凄まじいのです。シッケルグルーバーというのはあのアドルフ・ヒットラーの祖母の名前で、やがてヒットラーの父となるアロイスを私生児として生んだのでした。アロイスはやがて母の再婚相手の弟の養子となり、その苗字ヒットラーを名乗ります。このアロイスの誰だか分からない父親がユダヤ人ではなかったかという噂が、アドルフ存命中のこの1940年代には語られていたのだそうで、ここの歌詞に出て来る「エビー」というのはユダヤ人風の名前であるアブラハムの愛称です。もしアーリア系の苗字であるヒットラーでなくてこっちを名乗っていたら、息子のアドルフもユダヤ人迫害なんてことはしなかっただろうという訳です。
それだけヒットラーに対する憎悪が掻き立てられてできた歌といえばそうなのですけれども、私はこんな風に肉親たちまで叩くような歌詞にはなんとも馴染めないものがあります。
メジャーな歌手の録音では、フォン=オッターが「七つの大罪」他を歌ったヴァイル歌曲集の中に収録されており、格調高く歌われておりますが、詞の下品さからするともっと崩した歌の方が似合っているように思えました。

( 2018.02.10 藤井宏行 )


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