用心づくし |
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スパイにほひの 御飯とみたら 食べなさるなよ 饐(す)えてゐる 用心せー 用心せー スパイにほひの 着物とみたら お着なさるなよ 蒸れててゐる 用心せー 用心せー スパイにほひの 住居(すまゐ)とみたら 住みなさるなよ 湿つてる 用心せー 用心せー スパイにほひの 人間とみたら 寄せなさるなよ 毒がある 用心せー 用心せー |
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悪い冗談みたいな曲ですが、当時はけっこう真面目に歌われていたのでしょうか? まあ現在大真面目に歌われているようなことでも、後世からみたら「なんて馬鹿なことを叫んでた時代だったんだ!」と言われそうなものはきっとあると思うのであまり勝手な論評は控えましょう。
(「必ず最後に×は勝つ」とか「×あればこそ世界はひとつ×ゆえにひとはうつくしー」なんてのはなんか後世の人からそう言われそうなフレーズの典型のように私は思いますけど。←これに信仰篤い人が現在は非常に多いようなのであえて伏せ字。伏せても何だかはみえみえですが、「×を信じぬ奴は非国民だ」とか責めないでね...今年もやるのかなあ「×は地球を救う」
実は他にももっとうんざりしてる物言いがあるのですが、さすがにこれは本当に怒る人がいそうなので書けません)
この「用心せー」、歌詞も凄いですがメロディも脱力した「フニクリ・フニクラ」みたいなので、一度聴いたら頭から離れなくなってついつい口ずさんでしまう恐ろしい曲です。
「スパイ」は「酸っぱい」とかけているのでしょうか?ブラックユーモアもここまでくるとちょっと笑えません。
作詞の岡本一平は当時の人気漫画家なのですが、「芸術は爆発だ」の現代美術家・岡本太郎の父親としての方が今は有名でしょうか。
この太平洋戦争に突入しようかという時代には、内務省が推進した江戸時代の5人組制度の昭和版「隣組」の育成に、町内副会長として尽力していたのだそうです。その体験を詩にした「隣組」(作曲:飯田信夫)の方が曲としては有名で、こちらのメロディは「ド・ド・ドリフの大爆笑」という替歌で皆さんにもおなじみかと思いますが、その連作として作られたのがこの歌なのだそうです。
町内会の下部組織として、防犯や防火などに協力しあうだけでなく、配給物資の分配やら防諜活動、果ては節約節制の連帯責任まで負わされるという本当に江戸時代の5人組が復活したかのような「隣組」。戦後は占領軍の命令により廃止されましたが、今やその反対に都会では隣付き合いの関係が希薄になりすぎてしまいました。それもよしあしではあると思うのですが...
作曲の服部正は、歌曲としてはこれもユーモラスな「野の羊」で知られていますが、恐らく彼の一番有名な作品は今の時期の定番、ラジオ体操第一の音楽でしょうか。
藍川由美さんの作った力作アルバム、「国民歌謡〜われらの歌〜国民合唱」を歌う(DENON)でも、美しい大中寅二の歌曲「椰子の実」や軍歌以上に激しい戦争遂行協力ソング「ああ紅の血は燃ゆる」などの多彩な曲の間に入っても群を抜くインパクトで迫ってきます。このCDには「隣組」も一緒に収録されているのもGOOD。
こんな曲(褒め言葉です)をよくもまあ見つけられましたね、というよりもよく歌う気になりましたねえ、と絶賛しなければ。
オリジナルを歌ったのは夭折したバリトン歌手徳山 l(隣組も彼の歌唱。この当時の重要な歌を歌曲・歌謡曲かかわりなくたくさん歌っています)なのだそうで、こちらもぜひ聴いてみたいものです。
( 2005.08.05 藤井宏行 )