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Cynara    
 
シナラ  
    

詩: ダウスン (Ernest Dowson,1867-1900) イングランド
      Non sum qualis eram bonae sub regno Cynarae (1891)

曲: ディーリアス (Frederick Theodore Albert Delius,1862-1934) イギリス   歌詞言語: 英語


Last night,ah,yesternight,betwixt her lips and mine
There fell thy shadow,Cynara! thy breath was shed
Upon my soul between the kisses and the wine;
And I was desolate and sick of an old passion,
 Yea,I was desolate and bowed my head:
I have been faithful to thee,Cynara! in my fashion.

All night upon mine heart I felt her warm heart beat,
Night-long within mine arms in love and sleep she lay;
Surely the kisses of her bought red mouth were sweet;
But I was desolate and sick of an old passion,
 When I awoke and found the dawn was gray:
I have been faithful to thee,Cynara! in my fashion.

I have forgot much,Cynara! gone with the wind,
Flung roses,roses riotously with the throng,
Dancing,to put thy pale,lost lilies out of mind;
But I was desolate and sick of an old passion,
 Yea,all the time,because the dance was long:
I have been faithful to thee,Cynara! in my fashion.

I cried for madder music and for stronger wine,
But when the feast is finished and the lamps expire,
Then falls thy shadow,Cynara! the night is thine;
And I am desolate and sick of an old passion,
 Yea,hungry for the lips of my desire:
I have been faithful to thee Cynara! in my fashion.

きのうの夜 ああ 昨晩 女の唇と私の唇との間に
そこにお前の影が射したのだ シナラ!お前の吐息が覆ったのだ
私の魂の上に キスとワインの間の
そして私は孤独だった うんざりしていた 過去の熱情に
 そう 私は孤独だった そして垂れたのだ わが頭を:
私はずっとお前に誠実だったよ シナラ! 私なりのやり方で

夜の間中 私の胸の上で私は感じていた 女の暖かい胸の鼓動を
夜通し 私の腕の中で愛と眠りのうちに女は横たわっていた
確かに買った女の赤い口のキスは甘かった
しかし私は孤独だった うんざりしていた 過去の熱情に
 私が目を覚まし 夜明けが灰色と気付いた時に:
私はずっとお前に誠実だったよ シナラ! 私なりのやり方で

私は多くのことを忘れてしまった シナラ! 風と共に去り
バラを投げては バラを 遊び仲間たちと
踊りながら 押しやったのだ お前の蒼ざめた 失われたユリを心の外へと
しかし私は孤独だった うんざりしていた 過去の熱情に
 そうだ のべつ幕なしに 踊りが長かったので
私はずっとお前に誠実だったよ シナラ! 私なりのやり方で

私は求めて叫んだ もっと狂おしい音楽を 強いワインをと
しかし宴が終わり 灯りが消えると
その時お前の影が降りるのだ シナラ!夜はお前のもの
そして私は孤独だった うんざりしていた 過去の熱情に
 そうだ 飢えているのだ 私の求めて止まぬあの唇に:
私はずっとお前に誠実だったよ シナラ! 私なりのやり方で

元々はディーリアスが1907年に「日没の歌」を書く時にこのダウスンの詩も取り上げて曲をつけようとしたのだそうですが、他の選ばれたダウスンの詩としっくりこなかったこともあって結局取り上げられることなく未完成のまま放置されることとなったのだそうです。1929年に弟子のフェンビー(友人のウォーロックという説も)が発見し、晩年の作曲者の協力を得て完成させ、その年に初演されました。その点では「日没の歌」に通じる雰囲気の音楽であり、バリトンのソロに精妙な管弦楽の伴奏がついてしみじみと昔を振り返るように歌われます。トマス・アレンのバリトンにこの曲にゆかりのフェンビー指揮ロイヤル・フィルの演奏が出ています。他にも複数録音がありますが、ディーリアスの作品としてはそれほど聴かれてはいないかも。
このダウスンの詩、傑作の誉高いようで、イギリス文学の研究者にして作家の南條竹則氏の書いた「悲恋の詩人 ダウスン」(集英社新書)ではその冒頭と巻末にディーリアスの曲も絡めて記述されています。今回自分の訳を作るにあたっても大いに参考にさせて頂きました。しかし失恋の痛手を癒すために金で買った女との睦言をしている最中に振られた女の幻影に悩まされる... 実に壮烈な内容の詩ではあります。ディーリアスのつけた音楽のように精妙な美しさとはちょっと違う世界のようにも思えますけれども...

( 2018.01.27 藤井宏行 )


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