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Zur Rosenzeit   Op.48-5  
  6 Sanger
薔薇の時に  
     6つの歌曲

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Erwin und Elmire (エルヴィンとエルミーレ 1775)  Wehmut

曲: グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) ノルウェー   歌詞言語: ドイツ語


Ihr verblühet,süße Rosen,
Meine Liebe trug euch nicht;
Blühet,ach! dem Hoffnungslosen,
Dem der Gram die Seele bricht.

Jener Tage denk' ich trauernd,
Als ich,Engel,an dir hing,
Auf das erste Knöspchen lauernd,
Früh zu meinem Garten ging;

Alle Blüten,alle Früchte
Noch zu deinen Füßen trug,
Und vor deinem Angesichte
Hoffnung in dem Herzen schlug.

Ihr verblühet,süße Rosen,
Meine Liebe trug euch nicht;
Blühet,ach! dem Hoffnungslosen,
Dem der Gram die Seele bricht.

お前達は枯れようとしている、甘き薔薇よ、
わが愛はお前達を抱(いだ)くことはなかった。
咲くのだ、ああ!希望の消えた者に向けて、
苦悩に心を裂かれた者に向けて。

悲嘆にくれて私はあの日々を思う、
私が、天使よ、あなたに執心していた時、
最初の蕾を待ちわびて
朝早く庭に出たのだった。

あらゆる花を、あらゆる実を、
さらにあなたの足元に飾り、
そしてあなたの顔の前で
希望が胸を叩いていたものだった。

お前達は枯れようとしている、甘き薔薇よ、
わが愛はお前達を抱くことはなかった。
咲くのだ、ああ!希望の消えた者に向けて、
苦悩に心を裂かれた者に向けて。


グリーグ(Edvard Grieg : 1843.6.15-1907.9.4)は母国語による多数の歌曲を作っているが、一方でドイツ語の詩による歌曲ばかりを集めて作品48として発表した。シューマンの「スペインの歌芝居Op. 74」やヴォルフの「スペイン歌曲集」でも取り上げられている”Dereinst,Gedanke mein”やウーラントの詩による軽快な”Lauf der Welt”など全6曲から成っており、グリーグ46歳の1889年に作曲された。

第5曲にあたるこの作品のタイトル”Rosenzeit”とは「薔薇の花期」から転じて「人生の花の時期、青春」という意味も持っているようで、西野茂雄氏は「青春の時」と訳しておられた。この詩も薔薇になぞらえた自身の恋の花を歌っているのだと解釈できるだろう。ちなみにゲーテの原題は「悲しみ(Wehmut)」である。

曲の第1節は歌とピアノ左手がユニゾンで進み、いかにも北欧歌曲の典型のような内側深くから響き出してくるかのような印象的なメロディーがもの哀しく耳から離れない。第2節は分散和音のピアノに乗って上行し切迫した表情を覗かせて、第3節では再び低く沈みこみ、第4節で再び第1節と同じ内容が繰り返され、美しいメロディーが胸に染み渡る。第3節の”deinen”や”in dem”の短い音価はドイツ語の強弱法を反映したグリーグなりの配慮と思われる。この曲をグリーグ夫人でソプラノ歌手のニーナが歌うのを聴いたチャイコフスキーが涙を流したそうだ。

アーメリングのマスタークラスの映像でこの曲が取り上げられていて、生徒のきれいな声に悲痛な響きが足りないのを感じた彼女は生徒におおげさなぐらいに声を重く響かせる練習をさせていたのが印象に残っている(アーメリングはこの曲を録音していないが、レパートリー外の作品にどのようなアプローチをするのかを知ることが出来るのが歌手のレッスンを見る楽しみの一つである)。

シュヴァルツコプフElisabeth Schwarzkopf(S)&パーソンズGeoffrey Parsons(P):SERAPHIM / EMI : 1970年8〜9月:シュヴァルツコプフの深味のある悲痛な表情は聴き手に突き刺さるようだ。第1節をたっぷりとしたテンポでしみじみ歌い、第2、3節との対比をうまく出している。熟達した芸の滲み出た素晴らしい歌。若かりしパーソンズも歌と全く遜色ない曲への同化が見事だった。
オッターAnne Sofie von Otter(MS)&フォシュベリBengt Forsberg(P):DG:1992年3月:オッターが深い思いを込めて感動的に歌う。第2節で前へ進む切迫感はやり過ぎないぎりぎりの所まで推し進める。テンポ設定は大胆だが、納得できる範囲内だ。第1節が最後に繰り返される時の表情の歌い分けが実に見事だ。フォシュベリは大きく豊かな流れで歌と見事なユニゾンを奏でている。

( 2005.07.18 フランツ・ペーター )


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