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憧れのハワイ航路    
 
 
    

詩: 石本美由起 (Ishimoto Miyuki,1924-2009) 日本
      

曲: 江口夜詩 (Eguchi Yoshi,1903-1978) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


民間によるハワイ航路が再開されたのは昭和26年、しかも一般人が自由に海外渡航できるようになるのはそれよりずっと後の昭和39年まで待たねばならなかったのですが、この曲がヒットしたのはなんと終戦のわずか2年後、昭和22年といいます。
まだ旅行どころか、戦争後の生活建て直しに多くの人々は追われていた食うや食わずの時期。にも関わらずこんな歌が流行するのはやはり、悲惨な時であればあるほど人間明るい夢を描いて前向きに生きて行きたいという願いが強く働くからでしょうか。余談ですがその後昭和36年サントリーの「トリスを飲んでハワイに行こう」のCMが一世を風靡したときでさえもまだ海外渡航自由化の3年前、賞品は渡航が自由化されたときに旅行資金として引き出せる積立金の引換証だったといいます。
今やちょっとアルバイトでもすれば行ってこれる「夢の国」ではなくなったハワイ。それと引き換えに私たちは夢をどんどんなくしているのかも知れません。
今更当時の窮乏生活に戻りたいわけではありませんが、ちょっと感慨深いものがありました。今の世でこんな憧れに満ちた幸せな旅の歌というものが作れるか?というともう不可能なように思えます。

さて、この曲の作詞の石本美由起はちょうどこの頃がデビューで、幼い頃故郷の広島で海を行き交う商船を眺めながら海の向こうにあこがれた気持ちを詩にしたといいます。そして作曲は江口夜詩(よし)、この人は海軍軍楽隊出身で、私も最近知ってびっくりしたのですが本名の江口源吾名で軍楽隊時代に作ったマーチ「千代田城を仰ひで」などが「日本の行進曲」と題したCDなどには未だにいくつか取り上げられているのですね。軍隊退役後は流行歌の作曲家としてこの曲を含め多数の傑作を残していますが、確かにこんな明るい行進曲風の曲が一際魅力的です。これが軍楽仕込みといったら江口氏に怒られそうですが、日本の軍歌(戦時歌謡?)の中でも稀有の明るい曲想を持つ「月月火水木金金」を例に挙げるまでもなく、この人の持ち味は「はーれたそらー」のようにからっと爽やかなメロディにあります。だから行進曲も素晴らしいですし、しんねりした艶歌が主流の流行歌の世界でもかなり特異な位置を占めていた作家だと思っています。

さて、オリジナルを歌った岡晴夫の曲にこれまた輪をかけた晴れやかな歌声も素晴らしいのですが、日本のこの時期の歌謡曲を次々と絶妙の解釈で聴かせてくれるテノールの五郎部俊郎の「うたは美しかったV」(Denon)に収録されているこの曲の爽やかな再解釈はどうでしょうか。私にとってはどちらの歌声も魅力的ですが、これらの貴重な文化財を年寄りと共に失われ行く「懐メロ」にしないためにも五郎部さんをより応援したいと思います。ぜひ聴いてみてください。

( 2005.07.16 藤井宏行 )


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