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ジャワのマンゴ売り    
 
 
    

詩: 門田ゆたか (Kadota Yutaka,1907-1975) 日本
      

曲: 佐野 鋤 (Sano Tasuku,1908-1996) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


太平洋戦争が始まると戦線は南方へと拡大し、インドシナからシンガポール、そしてインドネシアから遠くニューギニアへと日本軍は次々攻め入っていきました。
そして陸軍が日露戦争以降、次第に北方に勢力を広げていた昭和のはじめ頃には「国境の町」や「さすらいの歌」など、満州やロシアなどの大陸を題材にした歌が好まれていたのに呼応するかのように(これはいずれまた別途取り上げます)この時期、これら南方の地を題材にした歌謡曲がたくさん生まれてきました。
悪く言えば国策に迎合した歌謡曲の量産と言っても良いのかもしれませんが、そんな中でもいくつか印象的な音楽があります。

この「ジャワのマンゴ売り」、もとは新聞の記事にあった「ジャワのナシゴレン(焼飯)売り」の写真をみて作曲家が付けたメロディが先にあって、ナシゴレンではあまりに知名度がなさ過ぎるし詩情もないので、有名な南方の果物マンゴーに作詞の門田ゆたかが変えたのだそうです。作曲の佐野鋤(たすく)は、作風や経歴は服部良一に良く似た日本のジャズ歌謡の草分けの一人で、こんな南方のエキゾチシズムにも絶妙の切れ味を見せてくれます。戦争中はこの時期の音楽家のほとんどがそうであったようにこんな戦時歌謡や軍歌の作曲もしていたようですが、代表作で彼の本領を存分に発揮したのは戦後、暁テル子が戦災孤児のしたたかな生き様を明るいブギの歌に乗せた「東京シューシャインボーイ」。
私はこの曲、ちょっと量産のし過ぎで質の低下が見られなくもない服部良一の一連のブギウギ作品(三味線ブギやらホームランブギなんか)よりもよくできたジャパニーズブギの最高傑作ではないかと思っています。
もっとも佐野もブギウギの量産はしていて、私も聴いたことはないのですが桃太郎ブギやらびっくりしゃっくりブギといった怪しげなタイトルの曲がありますのであまり服部良一と違わないような気もしなくはないですが...

と、脱線はさておきこの「マンゴ売り」、曲の解説などではジャワのガムランを素材にしてエキゾチックな味を出したと書かれたりしています。
私の耳ではそうは聴こえないのですが(どっちかというと東宝の怪獣映画「モスラ」で出てくる南の島のキッチュな音楽を連想してしまった)、まあこの当時の歌謡界を席巻していたスタイルとは一線を画した不思議な雰囲気の音楽です。
最初の「ラーラーラー」というハミングでの出だし。「フレームツリーの木陰」や「更紗のサロン」あるいは「ガムラン」や影絵など、ジャワ風物を織り込んだエキゾチシズムも印象的。不思議な雰囲気を作り上げているのに貢献しているのは音楽だけでなく、この曲をデュエットで歌った2人の歌手にもあります。
ひとりはハワイ出身で、まだ戦争が激しくなる前にはアメリカからきたジャズソングを独特のクルーナー唱法で歌ってジャズやハワイアンの普及に大貢献した灰田勝彦、そしてもうひとりは戦後はクラシック畑の活躍の方が有名なソプラノ歌手大谷冽子(きよこ)です。2人のあまり伝統的な歌謡曲っぽくない歌い方に、前代未聞(戦後は腐るほど聴けるスタイルですが)の南方エキゾチシズムが溶け合ってとても面白い作品に仕上がりました。SP復刻のくぐもった音で聞くと実に味わい深いです。

もはや懐メロ集などでも見かけることの少なくなった作品ではありますが、ちょっと忘れ去られるには惜しい歌でもあります。

( 2005.07.16 藤井宏行 )


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