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Gebet   Op.62-33  
  Das Holdes Bescheiden
祈り  
     歌曲集「善き慎み」

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Gebet

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Herr! schicket,was du willt,
Ein Liebes oder Leides;
Ich bin vergnügt,dass beides
Aus Dein Händen quillt.

Wollest mit Freuden
Und wollest mit Leiden
Mich nicht überschütten!
Doch in der Mitten
Liegt holdes Bescheiden.

主よ! 身を委ねます、お授け下さるものに
愛であろうと苦しみであろうと;
私は共に喜びといたします
あなたの御手から湧き出るものならば

喜びをお授けください
悲しみをお授けください
でもあまりたっぷりとではなしに!
わたしにはほどほどを知る
善き慎みがあるのですから


 シェックの詩によるシェックのメーリケ歌曲集作品62『良き慎み』の全40曲のうち、ただ一曲だけフーゴー・ヴォルフのメーリケ歌曲集のものと重なり、しかも歌曲集のタイトルがその一節から取られているという重要な詩です。ヴォルフの項で既に訳しましたが、今回さらに手を入れました。ヴォルフの時も、シェックのタイトルになった”holdes Bescheiden”の訳を考えに考えて『良き慎み』としたのですが、その解釈を明確にするため多少言葉を補って意訳してみました。
 このタイトルは一見ビーダーマイヤー的な生温さを感じさせもしますが、これまでこの歌曲集の訳をしてきて、その内容に対して極めて反語的なタイトルであることがわかってきました。良き慎みを知ると言いながら、その実は過剰な感情の起伏に悩まされたのがメーリケでした。そしてこの詩におけるメーリケの真意もそこにあるというのがシェックの読みなのだと思います。ヴォルフの歌曲は作曲者がこの詩を、皮肉っぽいユーモラスなものとして捉えているいることが伺えますが、その他の39曲を全てヴォルフが作曲しなかった詩だけを用いるという徹底した「慎み」を見せるシェックが、この詩だけをあえて重複して取り上げたのも、ヴォルフの読みに対する異論の提出であり、かつまたそれが歌曲集のタイトルになっているところに、この歌曲集が決してヴォルフの後塵を拝するものではないという矜持の発露さえ感じられます。
 シェックの曲はコラール風に物々しく始まりますが、後半の虫のいいような願いはヴォルフのようにユーモラスにはならずより切実に表現され、次第に音を弱めて消え入るように締めくくられます。録音は二種の全集のみのようですが、フィッシャ=ディースカウとボストリッジという新旧の大物で聴けるのは幸いです。

( 2005.06.12 甲斐貴也 )


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